b. 天敵の利用
付着生物を天敵により除去させるという方法である。種々の付着生物に関して、細菌に対してはバクテリオファージ、藻類に対してはアメフラシ、フジツボ類に対してはクロダイなどの天敵が存在する。この方法では、天敵動物を対象となる表面上に集積させるための工夫が必要となる。
c. 生物由来付着忌避物質の塗布
生物由来の生理活性物質を表面に塗布することにより、生物付着を防止するという方法である。これまでに、ムラサキガイを用いた付着忌避物質の探索が数多くなされており、かなり多様な構造の化合物が付着忌避物質となり得ることが示されている。フジツボに対する付着忌避物質としては、ホンダワラコケムシに含まれる2,5,6-トリブロモ-1-メチルグラミンという化合物に強い活性があることが判明しており、現在実用化の段階に入っている。
米国では、生物付着を防止する物質としてシーグラス(海草)が注目されている。
シーグラスにより作り出される物質が、バクテリアや菌類、貝の生物付着を防止するのに役立つと考えられている。
d. 電気化学的付着防止法
細胞の直接電極反応を利用した電気化学的な殺菌方法である。具体的には、微生物の補酵素A(CoA)が電極反応をすることが発見されている。炭素電極を用いて1.2Vの電位を印加することにより、細胞内のCoAが減少するとともに呼吸活性が弱まり、最終的に死滅することが確認された。この電位においては、海水の電極に伴うpH変化や塩素の発生は認められず、菌体は電極との直接反応により殺菌されることが示された。さらに、この電極を海水配管内に被覆し、1.2Vの電位を印加したまま海水を通水させると、電位を印加しなかった場合と比較して、生物の付着量には顕著な差が見られた(図3.4.2-1)。この原理を利用した電気化付着防止システムは、現在、九州電力で実用化されている。
2] 水中接着剤
前述の生物付着の問題と関連して、付着生物の接着物質から水中接着剤を作り出す研究が幅広くなされている。これまでに、代表的な付着生物であるムラサキガイなどの足糸のタンパク質の遺伝子解析が行われ、その配列が明らかになり、さらに遺伝子組み換えによる生産も始まりつつある。参考として、図3.4.2-2にムラサキガイの接着の模式図を示す。