3.4.2 バイオミメティクスおよびその応用
(1) 概要
バイオミメティクスとは、生体の最適構造や機能をまねて人工材料を作り出す研究分野である。生体は人工材料と比較して、部品材料としての性能や信頼性は低いが、構造システムとしてとらえると、環境に対してかなり最適に設計された多機能な構造体であり、その性能や信頼性は高い。これは生体が、構成材料-構造要素-構造システムといった階層的な複合材料の構造体であるためと考えられている。海洋生物におけるバイオミメティクスの代表例としては貝殻構造が挙げられるが、その他にも最近では接着剤や海藻紙、さらには超電導材料に至るまでその適用が広がりつつある。
(2) 技術の現状
1] 生物付着防止
船体や漁網に対する生物付着は多くの点で障害をもたらす。例えば、船底が貝で埋め尽くされると、水の抵抗が大きくなって航行速度が落ち、燃費が悪くなる。また、船体の塗料がはげ落ちるなどの問題が生じる。一方、定置網や養殖魚を囲っておくための漁網などに付着生物がはびこれば、水の流れが悪くなり、付着生物自体が出す老廃物等により水質の悪化が生じる。このような生物付着の元凶となっているのがバイオフィルムである。バイオフィルムとは、船体などに付着した微生物が、粘着性の物質を多量に分泌して作り出す微生物皮膜のことである。そこに貝が付着し、さらにセメント物質が分泌されることにより固着が起こる。バイオフィルムの形成を阻止して、海洋生物の付着を防止するために、以下のような多数の方法が考案されている。
a. 付着忌避物質の塗布
生物付着の防止策として、TBTO(トリブチルスズオキシド)やTPT(トリフェニルスズ)化合物などの有機スズ化合物を塗布する方法がある。この方法では、これらの化合物が海水中に溶解して生物に対して毒性を発揮することにより、生物付着が防止される。有毒物質の塗布は効果的ではあるが、生態系に与える影響も大きい。
これに対して、低公害防汚塗料として、シリコンやテフロンを塗布する方法もあるが、これらの物質は表面張力が小さいため、生物が付着してもその付着力が弱く脱離しやすいという問題点がある。