4. 藻場の保全と生物多様性
生物多様性とは、1.遺伝子、2.種または個体群、3.群集または生態系、4.景観(Landscape)の4つのレベルからなる組織的、構造的、機能的階層性をそなえた概念であるとされている(Noss、1990)。最も上位の階層をなす景観は、物理的な環境としての地形と植生を含む生物群集の相互作用系であると定義されている。景観レベルでは、自然と人間の営為の両方の作用によってつくられる生育場所の種類と空間的な配置が重要であり、具体的には、上空から地球上のある場所を見おろしたときに、異なるタイプの植生あるいは生態系の構成・形態空間的な配置として景観を生態学的に理解することができる。この視点から考えると藻場は3の群集または生態系のレベルに対応している。したがって、藻場の保全を実行するためには、藻場だけでなく、干潟や砂泥域などの生態系と関連させながら全体として機能するLandscapeのレベルの生態系を把握しておく必要がある。
5. 藻場の修復
藻場が分布する条件、特に海藻や海草の生息可能な物理・化学的な条件が調べられている。これらの個々の条件の積集合として地理情報システム上で藻場造成が可能な海域として見積もることはできる。しかし、この海域に含まれる場合でも過去に分布していなかった海域に藻場を造成することは人為的な環境の改変を行わない限り困難であると考える。したがって、過去に分布していた海域に藻場を再生させるように水質などの海洋環境を改善することが重要である。
6. 結論
今まで述べてきたように藻場は沿岸生態系の中で重要な位置を占めており、藻場の分布域が拡大することで海洋環境の改善をはかることができる。藻場や干潟の保護のためには沿岸の埋め立てや、陸域における土地利用も考慮に入れる統合された沿岸管理(Intergrated coastal management)が必要となる。まず、全体の生態系の平衡も破壊することにつながる埋め立てなどの藻場の不可逆的な破壊を抑制し、藻場を含む沿岸域の修復と保全に取り組む中で、可逆的な破壊を抑制しつつ持続的な水産資源の利用を目指すことが必要である。