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1999年6月24日開催

第2回 沿岸海域における海洋環境改善技術に関する研究委員会

 

藻場を通して見た海洋環境の改善

東京大学海洋研究所 小松輝久

 

1. はじめに

陸上の森や林、草原とおなじように、海にも植物がつくる森や林、草原がある。海の森や林、草原を藻場あるいは海中林という。大型海藻類のホンダワラ類やアラメ・カジメ・コンブ類などは1m以上にもなる。これらの藻場はそれを構成する植物によってコンブ藻場、アラメ・カジメ藻場、ガラモ場(ホンダワラ類の森)とよぶ。また、海草の草原を海草藻場(seagrass bed、seagrass meadow)という。日本では最も分布面積の広い海草がアマモ(Zostera marina L.)なのでアマモ場という場合が多い。海藻類とは異なり海草類は、陸上で花を咲かせる種子植物のあるものが再び海で生活できるように進化し、海に戻った植物である。

 

2. 藻場の環境形成作用

丈の長い大型の海藻・海草の大規模な群落である藻場、海中林が、沿岸生態系の中で幼稚仔魚生育場として果たしている役割として新崎・新崎(1978)はつぎの項目をあげている。(a)波浪・海水の流動を阻害して付近を静穏にする。水温が周辺よりも適温化し、動物に休養を与え、荒天時の避難所となる。(b)日蔭・隠れ場や狭い迷路をつくり、動物を安堵させる。外敵からの逃避所・安息所となる。(c)生育する藻草体そのもの、あるいはそれらの体表面や根部にすむ微小動植物が餌料となる。また藻草体の腐死→分解で海水が富栄養化し、餌料プランクトンが繁殖するなど索餌場として好適である。(d)着生卵への着生基盤と、ふ化した稚魚の初期餌料とが豊富だから、産卵場として好適である。藻場では、物理的な環境に海藻や海草が流れを弱め、光を遮る影響を及ぼすことで、水温分布、照度分布に影響を及ぼし、さらにこれらの環境要素が、海水の密度分布や海藻や海草の光合成と呼吸などの生物化学的環境に影響を及ぼす。このように形成された藻場固有の環境が、独自の生態系を作り出し水産資源生物の生産や再生産の重要な場となっている。

 

3. 藻場の環境改善作用

海洋環境の浄化や大気保全、沿岸域の環境形成における藻場の役割としては、次のようなことが指摘できる。1.各種の物質の取り込み、2.海域からの栄養塩の吸収と有機物への転換、3.炭酸ガスの吸収と酸素の放出による海洋への酸素の供給、4.有機物の高次栄養段階への再配分と伝達がある。さらに、5.ガラモ場では、気胞をもつホンダワラ類が流れ藻として系外へ流出し、沖合域で沈降することによる、炭酸ガスのシンクヘの輸送、6.アマモ場では浮遊懸濁物を草体が流れを弱めてトラップし、堆積させることで海水の透明度を高め、地形を形成する作用、7.波浪などから海底を守り地形を安定させる作用、があげられる。もちろん、高次の栄養段階に移動した有機物は、漁獲物として回収され、人間に有効利用される。このように藻場は漁業資源を安定的に提供する場を形成する。岩礁性藻場において見積もられた物質循環の例を参考に示す(図1)。

 

 

 

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