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そうした動きにも関連して、湾岸の生態系や生物生息場の修復をはかるための将来の目標を具体的に検討するためのプロジェクト(Wetland Ecosystem Goals Project)が進められ、その報告がBaylands Ecosystem Habitat Goalsとして1999年にとりまとめられている。この報告では、生物生息場としての湾岸の環境の過去(1800年頃)から現在に至る推移を明らかにするとともに、いくつかの鍵種についてその生息場の利用状況などを体系的に整理し、さらにそれをマップ化して地域ごとに今後の修復の可能性を探ることによって、近い将来に達成すべき生息場類型の構成比率などに関する指針が示されている。基本的な方向として、堤防で仕切られた塩田や干拓地に潮流を導入して塩性湿地(tidal marsh)の面積を増やすことが目標とされている。この報告の内容は、サンフランシスコ湾エスチュアリー研究所のホームページ(www.sfei.org)で見ることができる。

州の沿岸管理委員会(California Coastal Conservancy)や陸軍工兵隊などの手によって、湾北部のサン・パブロ湾に面したソノマ地区で現在進められている修復事業(Sonoma Baylands Tidal Wetlands Restoration Project)は、ウェットランドの修復事業の中でも最大規模のものであり、地盤沈下のため農地として機能しなくなった289エーカーの干拓地(1800年代後半に造成)を浚渫土砂を利用して嵩上げし、干拓堤防の一部を取り外して潮流を導入することによって、ウェットランドの機能を回復させることが計画されている。まず1988年に上記のBCDCが土地を購入し、1994年に地盤高の嵩上げが行われた後、1996年1月にはパイロット事業として一部(29エーカー)に、さらに1996年10月には全体に潮流が導入された。この事業で注目されるのは、最初に地盤高の嵩上げ工事を施して土砂の堆積過程を人工的に加速すること以外は、できるだけ自然の潮汐エネルギーに委ねながら時間をかけてウェットランドを修復しようとしている点である。おそらくこれまでのいわばインスタント・ウェットランドが生息場としての生態機能を十分に回復できなかったことの反省に立つものと考えられる。これまでのモニタリング結果によれば、修復過程はほぼ当初の計画に沿って進行しており、いくつかの絶滅危惧種の生息も確認されている。

 

 

 

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