窒素の負荷源としては、洪水時の流出(stormwater runoff)によるものが最も大きく(約45%)、次いで大気経由のものが30%近くを占めている。そのため、1980年代の前半にまずstormwaterの水質を工学的に制御する技術の開発が進められ、その結果、1980年代半ばまでにクロロフィル濃度は急速に低下し、藻場の面積にも回復の兆候が見え始めている(図-4.3.2)。そこでさらに、1990年代に入って、連邦・州の関係機関、産業界の関係者と市民の緊密な連携のもとに、湾の環境修復に向けての課題を整理した上で幾つかの具体的な目標を設定し、それを達成するための基本戦略を練り上げた。その成果が、1996年に「タンパ湾の包括的環境保全・管理計画」としてとりまとめられ、それに沿って関係者間の調整をうまくはかりながら湾の環境修復事業が推進されている。その後のモニタリング結果によれば、クロロフィル濃度は1990年代も同様に低い水準で推移しているが、今後の人口増加を想定すれば、少なくとも1992-1994年あたりの水準を維持することが必要と推測されており、そのため2010年までにさらに7%の窒素負荷の削減が計画されている。長期的な目標の一つは、湾内の藻場の面積を1950年頃の状態まで回復させることにおかれており、このように測定可能なきわめて具体的な目標を共通のものとして持つことが、複数の公的機関や企業、市民との連携のもとに環境修復事業を円滑に推進するために必要不可欠のようである。
州政府でこうした環境修復事業に中心的な役割を果たしているのは水資源管理局であり、そこでは1988年からこの湾を最優先水域としてSWIM (Surface Water Improvement and Management)というプログラムを推進している。このSWIMでは、特にstormwater処理システムの開発や、生息場の修復のための用地購入、修復計画の立案と実行などかなり実践的な課題に取り組んでおり、現在までにのべ500エーカー(約2km2)ほどの生息場が修復されている。修復に際しては、多様な生息場の構成比率(habitat mosaic)を維持することに最も注意が払われており、できるだけ自然に近い形状・植生を持つ水路や塩分勾配などを再現することによって、生息場として機能すると同時に湾に流入する水の浄化にも寄与するようデザインされている。これまでに失われた10,000エーカーほどをすぐに取り戻すことは難しいにしても、このような努力を地道に続けることの大切さをあらためて痛感させられた。
フロリダ南西地区水資源管理局では、タンパ湾の環境情報、様々な取り組みの進捗状況などをホームページ(www.swfwmd.state.fl.us)で公開している。