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1983年に設立されたチェサピーク湾プログラム(Chesapeake Bay Program)は、湾の環境や生物資源の回復を目的とする事業を推進するための組織で、数名の環境省のスタッフに加えて、関係各州自治体や大学等から派遣された70名余りの人たちが共同で運営している。おそらく1980年代のはじめ頃に、カキをはじめとする湾の重要な生物資源が急激に減少し始めたことがその設立のきっかけになったのであろう。その当時の水質等の現状分析を踏まえて、1987年に結ばれた協定(1992年に改訂)では、2000年までに湾に流入する窒素とリンの負荷うち制御可能なものを40%削減すること(1985年を基準として)を主な目標にかかげ、それを達成するため排水処理技術の開発や流域の浄化機能の強化を含むさまざまな施策が講じられてきた。

リンについては、負荷量の削減目標が達成されつつあるが、窒素の方は必ずしもうまくいっておらず、各支湾に一層の努力が求められている。それでも水質回復の具体的な指標の一つとして用いられている藻場(SAV: Submerged Aquatic Vegitation)の面積は少しずつ増加し、またシマスズキなどの資源量が1990年代に急増するなど、幾つか環境や資源の回復の兆しと思われる変化が生じている(図-4.2.2)。2000年には、これまでの経過を総括しながら、生物資源の回復をより強力に進め湾の健全さをとり戻すため負荷削減の努力をさらに続けるべく、新たな協定Chesapeake 2000 (C2K)が結ばれる見通しであり、そこにはこのような事業の環境教育の機能を高めることも盛り込まれている。

環境省のチェサピーク湾プログラムオフィスでは、湾内の160点ほどで継続されている膨大な環境モニタリングのデータをGISなどにより総合的に解析し、現状診断と変化傾向の評価をたえず行い、ホームページ(www.chesapeakebay.net)を通じて公開している。

このような背景のもとで、メリーランド大学環境科学センターに、湾の環境回復と生物資源の増養殖に関する基礎研究を進めるため、Aquaculture & Restoration Ecology Laboratory (AREL)が新たに設けられた。また、同大学のChesapeake Biological Laboratory (CBL)の地先では、ARELの協力を得ながら、昔は沿岸全域で見られたカキ棚と藻場を回復させるための試験研究(BayScape Habitat Reconstruction Project)が開始されている(図-4.2.3)。このプロジェクトの目標は、カキ棚を回復させそれを自然の波よけに利用しながらその岸側に藻場を造成し、藻場の生物生産とカキの成育とが共存していた昔ながらの風景をとり戻すことにある。湾の水質改善がその前提になることは言うまでもないが、自然の生態系の複合的な機能に着目している点は興味深い。

 

 

 

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