2)生息場創出事業における課題
各事例の検証結果を踏まえ、生息場創出における今後の課題を検討した。
・生息場内部の環境条件設定における自然の自己デザインの活用
金沢海の公園におけるアサリ、関西国際空港における海藻類のように、当初から特定の生物の生息を目標とした事例では、水深、底質などの設定に際し、対象生物の生息条件が反映されている。しかし、本来生息場は長い年月をかけ、自然の営みの中で涵養されるものであり、波浪、潮汐、台風時の攪乱などに伴って地形や底質などの海底性状が決定され、そうした環境に適応する生物が定着することによって形成されていく。水深、底質など個々の環境条件を人為的に特定の条件に整えても、その他の条件がこれを涵養しないものであれば、長い年月の間には当初の条件から変化していく可能性がある。
葛西人工なぎさでは、干潟勾配等の条件を初めから全て人が決定するのではなく、砂を盛り上げて放っておき、勾配や造成後の地形は波の力など自然にまかせる、という半人工、半自然の工事工法がとられている(港湾環境創造研究会、1997)。このような自然の自己デザインに任せた手法が適用された事例はまだ少なく、生息場創出技術における今後の課題の一つである。
・循環システム修復に対する予測・評価方法の検討
創出した生息場は、周辺環境や他の生息場とのつながりを通じ、循環システム全体の修復に効果的に寄与することが望ましい。
関西国際空港の例では、形成した藻場や人工島の魚礁効果によって多くの魚介類が蝟集するようになり、大阪湾の生物機能の向上に貢献したと考えられる。しかし、事前にどの程度の効果があるかを予想することは難しく、また、藻場や魚礁機能の付加が、大阪湾の循環システム修復に最も効果的な手段であったのかどうかを評価することも難しい。生息場創出による効果を広域的なシステムの向上に結びつけていくためには、予測や評価を行うための技術や考え方の整理が必要と考えられる。
・人間活動の活用
人間活動を、創出した生息場の機能に関連づけ、活用している事例は少ない。今後は漁業や環境教育などを、事業の中に位置づけていくことが課題である。