(4)干潟・浅場造成
干潟・浅場造成の事例は多いが、そのほとんどは親水空間(横浜市金沢地先海の公園、葛西海浜公園)、漁場・潮干狩り場(広島県似島、羽田沖ほか)、野鳥公園(東京港、大阪府南港)等の整備事業として実施されており、環境悪化に対する改善策というよりは、親水機能や生物の生息・生産機能の向上を期待する意味合いが強い。このため、事業が実施されている場所は必ずしも環境が悪化している海域とは限らないが、底生動物、底生微小藻類、海藻草類、魚類、鳥類など、生息する多様な生物による水質浄化機能が期待できること、閉鎖性海域での造成に適していることから、環境改善技術としても適用可能である。
干潟・浅場造成による環境改善は、生息する生物や生態系の機能に依存したものである。このため、実際の効果は底生動物などが安定して生息し、魚類や鳥類まで含めた食物連鎖の構造が形成されるまで待たなければならず、必ずしも造成直後からの効果を期待することはできない。横浜市金沢地先海の公園の事例では、造成直後からバカガイ、シオフキガイ等の発生がみられたものの、アサリの個体数が安定したのは造成後2年目からとなっている(細川、1995a)。
生態系が順調に形成されて安定すれば、環境改善機能の持続性は高い。しかし、金沢地先海の公園の例ではアオサの漂着や干潟生物の生息を阻害する生物(ホトトギスガイ)の増加が報告されており(細川、1995a)、人為的な除去管理が必要となる場合も多い。また、広島県五日市干潟では、造成後、台風による浸食、圧密沈下が起こったことが報告されており(小倉・今村、1995)、これらの物理的変化が生物の浄化作用に与える影響についても検討する必要がある。
既存の干潟における浄化能力については物質循環モデル等を用いた調査・研究が行われているが、新しく干潟を造成した場合、そこにどのような生物が定着し、どのような生態系が形成されるかを予測することは困難である。このため、浄化能力の定量的な予測は難しいのが現状である。
このように、干潟・浅場造成による環境改善は生物機能を用いたものであるため不確実な要素が多く、期待できる効果や、効果を維持するために必要な管理などの予測が困難なのが大きな課題である。しかし、安定した生態系を形成することができれば持続的に環境改善を行うことができ、さらに、親水機能、生物の生息場、生産の場としての価値も付加されるため、課題はあるものの改善技術としての有望性は高いと考えられる。一方、物質循環や環境改善のメカニズムからみると、底生動物や藻類、海藻草類は水中の栄養塩、有機物を体の一部として貯留するものの、採餌、漁獲等によって系外へ移出されることがなければ死亡、分解されて大部分は水中に戻ってしまうため、貯留作用は一時的にしかならない可能性がある。