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(5)改善計画の考え方

自然の循環システムは広域的に連続したものであるため、これを活用した環境改善はシステム全体を含む広域的な視点で検討することが必要であり、また、生物の成長やライフサイクルを考慮すると、長期的な視点に基づいたものであることが重要である。そこで、ここでは改善計画をどのような「空間」と「時間」に関する考え方で展開すべきかを検討した。

 

1)空間に対する考え方

港内など局所的な水域の改善を目的にする場合や、海湾全体など広域的な水域の改善を目的とする場合など、改善を目指す水域の空間スケールは事業目的によって異なっている。しかし、循環システムが局所的な空間内で完結するものではないことを考慮すると、局所的な水域の改善を目標とする場合でも、対象海域だけでなく、周辺海域との海水の交換、生物の行き来など広域的なシステム全体とのつながりを踏まえて施策を検討する必要がある。

広域的な環境改善の考え方を、仮想の海湾を例として図-1.1.9に示す。湾内の生物機能は湾奥に広がる干潟を核としており、ここで栄養物質が浄化されるとともに、湾内の漁場で漁獲される魚類の成育場になっているとする。しかし、成層構造が発達する夏季になると湾奥の一部に貧酸素水塊が形成され、海底の生物を死滅させるとともに、青潮の原因となって干潟の生物にも影響を与え、湾域全体の生物機能を阻害している。このような場合には、改善策としては例えば以下の内容が考えられる。

・貧酸素水塊の発生域に覆砂等の施策を講じ、貧酸素水の発生を防ぐ。

・貧酸素水の影響が及ばない場所に新たな干潟を創出し、既存の干潟の機能低下を補完する。

・干潟に貧酸素水塊が進入しないよう、構造物を設置して流動を制御する。

施策としてはこれらのうちのいくつかを複合的に適用することが必要になると考えられる。その際、とくに流動環境の改変など、その場の本来の特性を改変する恐れのある技術については適用に際して注意が必要であり、湾内のそれぞれの場が循環システム全体に果たす役割を踏まえ、それを尊重した技術の選択、適用が望ましい。

 

 

 

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