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(4)環境改善策の方向性

陸域からの負荷に対し、抜本的な環境改善を行うためには即効性だけを求めるのではなく、効果の発現は緩やかでも持続性が高く、負荷された物質そのものが除去される施策を長期的な視点で検討することが重要である。そのためには、海域が本来持っている自然の循環システムを修復することが重要であり、その中で生物の「浄化-生産機能」を最大限に引き出し、活用する施策が望まれる。

ここではこのような視点に立ち、望ましい環境改善策の方向性を検討した。

 

1)生物生息場の復元による循環システムの修復

沿岸海域には、もともと干潟や浅場、藻場など豊富でかつ多様な生物が生息する場が広がっていた。これらの場には、豊富な量の生物による栄養物質の取り込み作用や、多様な生物間に形成された複雑な食物連鎖系が存在し、生物活動を通じた物質循環システムによって陸域からの負荷を浄化する役割を果たしてきた。さらに、海域に広く生息する魚類などの多くは沿岸域の干潟や浅場、藻場を産卵、成育の場として利用するため、これらの場はこうした生物を生産することによって、広域における物質循環システムを支える要ともなってきた。生産された生物のうち、水産上の有用生物は日本の沿岸海域で古くから営まれる漁業活動によって陸揚げされ、海域から除去される。そのため、漁業活動も海域の物質循環システムにおける浄化機能の一翼を担ってきたと言える。

かつての沿岸海域は、このような人間活動を含めた自然の循環システムが健全に機能し、陸域からの負荷量とのバランスがとれていたため、水質汚濁などの問題が発生することはなかった(図-1.1.5(a))。しかし、近年、人口の増加や産業の発展に伴って陸域からの負荷が海域の循環システムの許容量を超えて増大し、さらにシステムの主要な役割を担う干潟や浅場、藻場が沿岸開発による埋立で大幅に減少した。その結果、物質収支のバランスは崩れ、浄化しきれない栄養物質は沿岸海域に蓄積して水質汚濁の原因となると同時に、赤潮、底質悪化、貧酸素などを引き起こし、生物の死滅を招いている(図-1.1.5(b))。生物の死滅が引き起こされれば生物活動による浄化機能が失われるだけでなく、生物体として貯留されていた栄養物質が水中へ回帰し、さらなる汚濁の原因ともなる。

このような環境悪化の経緯を踏まえると、陸域からの負荷を削減することに加えて、失われた干潟や浅場、藻場など豊富な生物が生息する場を復元し、生物活動を通じた物質循環システムを修復することが、最も重要で抜本的な環境改善の方向性と言える(図-1.1.6)。干潟・浅場造成、藻場造成など生息場の創出は、環境改善策として即効性が高い技術とは言えないが、前項で示したとおり、長期的にみれば有効な改善策である。したがって、これらの技術を活用して沿岸海域における生物機能を復元、強化し、自然の循環システムを修復することが今後の環境改善策の重要な方向と考えられる。

 

 

 

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