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2.4.3 分散オブジェクトシステムの効率的運用へのエージェント技術の適用

分散オブジェクト技術の特徴は、大規模なシステムを柔軟に管理できるということで、基本的な機能を提供するサービスは、オブジェクトとして実装され、ネットワーク上に公開される。新たなサービスの付加、既存サービスの保守のような管理作業は、比較的粒度の小さいオブジェクト単位で個別に行え、システム全体に影響を与えることなく柔軟に管理できる。また、サービス処理の負荷を、ネットワーク上のコンピューターに分散できるため、単独のマシンの場合よりも高性能が期待される。更に、これらオブジェクトをネットワーク経由で組み合わせることによって、全体として高度で大規模なサービスを提供できる。

しかし、分散オブジェクト技術そのものは情報インフラストラクチャであり、これを効率的に利用するには、何らかの仕組みがあることが望ましい。例えば、設計者が作業中にあるサービスを必要とする場合、設計者はそのサービス(アプリケーションプログラムなど)を提供してくれるオブジェクトの所在を確認し、所定の手続きでサービスを要求し、結果を受け取ることを、自分で行わなければならない。これは非常に煩雑であるし、オブジェクトの数が増えるに従って、オブジェクトの探索コストが指数的に増大するので、スケーラブルではない。実際、造船業務の大規模性や複雑性を考えると、システムへの参加者、あるいは、公開されるサービスも極めて多数に上ると想定される。

このような大規模分散オブジェクトシステムを効率よく運用するためには、分散する多数のオブジェクトの中から、利用者が適切なものを探し出してアクセスするのを支援する機能が必要である。支援機能の実現レベルと、実現へのアプローチは種々考えられるが、少なくともその時点で利用可能なオブジェクト一覧を、利用者が自由に見ることが出来なければならない。

そこで、本開発研究では、エージェントを利用してこの支援機能を実現した。実現したプロセスモデルに基づく協業支援システムでは、システムに参加する主体(人、サービス、アプリケーションなど)は、基本的に個々に固有のエージェントを有しており、これらのエージェント群が互いに通信し合い、情報交換を行うコミュニティを形成する。このコミュニティには、参画しているエージェントに関する情報を管理するサーバー(エンタープライズサーバー)がある。そこで、利用者が好きなときに、エンタープライズサーバーにアクセスし、その時点で利用可能なオブジェクト一覧を参照できる機能を提供し、利用者がオブジェクトを探し出す手間を軽減することとした。利用者は、エージェントにより検索され、表示されたオブジェクト一覧画面から利用したいサービスを選択し、アプリケーションを起動することが出来る。

 

以上述べたように、本開発研究においては、エージェント技術をプロセスモデルによる協業支援システムの実現及び分散オブジェクトシステムの効率的運用という2つの分野に適用した。エージェントの特徴である環境適応性と自立性は、これらの機能実現に重要な役割を果たすこととなり、この意味でエージェント技術は高度造船CIMの基盤情報技術であるということが出来よう。

 

 

 

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