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このように、エージェントは自分がおかれている環境を常に監視し、ある程度の知性に基づいて判断しながら、自律的に処理を行うソフトウェア技術であると言える。

なお、エージェント技術の詳細を付録として巻末に添付した。

 

2.4.2 プロセスモデルによる協業支援へのエージェント技術の適用

さきに述べたような特徴を持つエージェントの具体的な適用対象として、本開発研究で目指す、プロセスモデルによる協業支援環境の構築がある。プロセスモデルは、造船業務の作業手順を時系列的に記述するもので、仕事の先行・後続関係や、仕事を行うのに必要となる情報の依存関係なども記述される。プロセスモデルに定義された手順に従って、設計を進めることで、設計作業全体としては、整斉と作業を進めることが出来る。

しかし、実際の設計現場では、様々な状況の変化や外乱に適応して、時々刻々仕事の進め方や作業順序を、他の設計者と調整しながら変化させなければならない。こういう適応能力は、人間であればこそ、柔軟性をもって発揮されるものだが、協業作業を支援するシステムも、このような動的な対応が出来る必要がある。しかし、プロセスモデルは言わば静的なモデルであり、単体では、動的な環境の変化に応じて、モデル自身を適応させて行くメカニズムを実現することは困難である。それで、プロセスモデルを造船業の協業支援に用いるには、動的に状況の変化に対応する仕組みを持たせる必要がある。

ここに、周囲の状況の変化に動的に適応するという、エージェントの特徴を生かすことが出来る。エージェントはある程度の知性を持って、自律的に振る舞うとともに、相互に通信することが出来るので、設計者のそれぞれにエージェントを付けることによって、全ての設計者の状況が、時々刻々相互にやり取り可能になる。エージェントが相互に通信することで、ある種のコミュニティを形成すると言える。エージェントは、このコミュニティに流れている作業者の状況を監視し、適切な情報を主人である設計者に提示するので、設計者はタイミングを逸すること無く、作業を早めたり、手順を組み替えたりするなど、動的な対応が可能となる。

また、エージェントは知性を有するので、設計者の仕事を知的に支援できる。例えば、エージェントに簡単なルールを記述することによって、作業者が行わなければならない仕事を、ある程度までは自動的に代行できる。エージェントが有するルールは、自由に編集可能なので、設計者は自分の仕事の進め方に応じた、エージェントを仕立て上げることが出来る。また、ある設計者が「育てた」エージェントを、他人が利用することによって、知識移転が可能となる。更に、エージェントには学習機能が備わっているので、使い込むにつれて環境適応性が増して行く。

このように、エージェント技術を導入することによって、プロセスモデルに基づく動的な協業支援環境を実現することが出来る。具体的なメカニズムについては4.で述べる。

 

 

 

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