2.2 知識共有化の仕組みと関連要素技術
2.2.1 知識共有環境実現に要求される機能要件
繰り返すことになるが、造船業はあらゆるステージで関連部署が情報を交換しながら調整を進める典型的なコンカレントエンジニアリングを行っており、これを支援するための知識と情報の共有環境を、情報技術を適用して汎用性の高い形で実現するための要件を以下に述べる。
多くの関連部署の専門家が協業して、製品情報を生成して行くエンジニアリング作業において、必然的にそのステージで生成される情報及びそれに適用される知識は、各部署や専門家に物理的に分散して存在する。また、それらの情報や知識を処理するコンピューターも、急速な技術の進展に伴う低価格化などにより、技術者1人に1台の世界になっており、情報処理効率の面からも、ネットワークで結合された分散処理が定着している。
このように、ネットワーク上に分散した知識と情報を複数ステージの関連技術者間で共有し、効率的な協業支援を実現するシステム環境の構築のため、次の2つの要素が必要である。
1]そのドメイン(業種)に共通なオントロジを表現した情報モデル
2]ネットワークで結合されたハード・ソフトウェア資源間の効率的な情報交換の仕組み
(1) 造船業の協業支援に必要な知識・情報を表現する情報モデル
造船というドメインで共通的に使用される知識と情報を表現した情報モデルは、知識共有環境実現のためのシステム的基盤であり、本開発研究では、下記の2つのモデルを知識・情報共有の中核モデルと位置付けている。
1]プロダクトモデル(PM):
船という製品に関する知識・情報を表現するモデルで、一般には、製品情報モデルと称され、これまでの造船CIMに関する開発研究で深く検討されてきたものである
2]プロセスモデル:
造船の業務プロセス、すなわち、いかに船という製品を設計し生産するかという、作業手順に関する知識と情報を表現するモデルで、その重要性を再認識して従来のプロダクトモデルから独立させたものである
この2つのモデルが知識・情報共有の中核モデルであり、一方、各部門には、これらのモデル情報を利用して種々の処理を行うことによって、技術者を支援する業務アプリケーションが多数存在している。これらのアプリケーション、あるいはそのアプリケーションが参照するデータファイルにも、業務固有の知識、例えば、造船所固有の設計標準や各種作業標準適用時のデータ処理要領等が織り込まれている場合が多い。
従って、造船というドメインに現れる知識と情報は、プロダクトモデルとプロセスモデルを中核とし、そのモデル情報を参照して、情報処理を行う業務支援アプリケーションにも織り込まれていると捉えるべきもので、これらの情報資源がネットワークで緊密に連結されたシステム全体で表現されると言える。