北極海の自然状況の経年変化は著しく、NSR航行船舶に課せられた運航仕様を満たした航行が行われる限り、NSR啓開が自然に及ぼす影響を特定するには、少なくとも数十年のモニタリングが必要である。船舶主機等からの排気汚染評価についても、近い将来予想される運航量から推論すれば、大気大循環によって北極域に運ばれる有害物質との仕分けは難しく、NSR港湾等局所的な評価に留まるものとなろう。
生態系への影響については、先ず影響評価を行うために必須の統計母集団の構築が急務であり、これはNSR啓開を別としても、地球生態系モニタリングの一環として必要欠くべからざる資料であり、過酷な自然環境を考慮すれば、逆にNSR運航船舶への調査協力依頼が真摯に検討されるべきであろう。
6.6 まとめ
INSROPの総合的な結論から見れば、北極海航路が国際商業航路として成立するための当座の課題は、殆ど全てロシア側の問題であり、法制、税制、科料制度等多岐にわたる。しかし、一方では、インフラストラクチャーの整備を別とすれば、NSR啓開を妨げる問題の多くは、仕組みの改変、方針の見直しによって解決し得るものが多く、外国資本の侵略、資源の経済的略奪などに対するややもすれば過剰防衛的政策を捨て、資源・文化大国としての誇りを守りつつ、国際社会、国際市場の一員としての施策を講ずれば、自ずから道は拓けるものと思われる。