環境基本法は環境保護の概念及びこれを達成するための手段についての原則を示すものであり、その詳細についてはそれぞれの項目に関わる国内法により定められるものとなっている。なお本法の最後に、国際的な法規・規準の遵守が述べられ、ロシアが批准した国際法等の国内法に対する優位性が示されている。
NSRをはじめとする、海域における環境保護に関する法律としては、大陸棚に関する法律(The Continental Shelf Law)及び水域に関する規定(The Code of Water)がある。両者は共に1995年に制定され、類似した内容の法律となっているが、後者の方が環境破壊に対する責任・補償等についてより詳しい規定を盛り込んだものとなっている。両法に基づいて、国家環境保護委員会(The State Committee of Environment Protection)及び北極海航路管理局(The NSR Administration)がNSRにおける船舶に起因する環境汚染に対する検査・監督にあたる。国家環境保護委員会は、連邦レベルにおける環境保護政策を担当し、環境保護区域を制定するとともに、レッド・ブックを作成する。また、両組織からの検査官はロシア船、外国船を問わずに検査の権限を有し、違反船については航行を差し止めることができる。
NSRにおける船舶からの環境汚染物質の排出に関する規準は、外海における汚染防止に関する規則(Regulations for Preventing the Pollution of Offshore Waters)、外海給水海域の汚染防止のための衛生規準(Sanitary Regulations and Norms for Preventing the Pollution of Offshore Waters in Water Supply Areas)において定められる。これらによれば、油濁水の排出は、MARPOL条約の特別海域を対象とした規準を満たすこと、汚水については、船舶が航行中の場合、大腸菌群汚染指標が1リットル当たり1,000以下であることが求められる。廃物の海中投棄は認められない。また、氷の汚染及び廃棄物の氷上への貯蔵も認められない。
NSRにおける船舶起因の環境汚染に対する規制を含め、ロシアにおける環境保護に関する国内法規の整備は、ソビエト連邦からロシア連邦への体制の変換に伴う一時的停滞により、諸外国に比べて遅れ気味であった(WP-128)。このため近年、環境保護関連の法規・機構等の整備・見直しが急がれている(WP-167)。
4.5.6 まとめ
INSROPの成果は、VECを識別し、おおよその分布をINSROP GISに纏めたとことと、環境評価法についてロシア側と手法ならびに問題点を共有したことであろう。影響仮説については、カテゴリーCと判定されるケースが殆どであり、NSRが本格的に利用され始めたら、観測点を決め定期的に今回識別したVECをモニターする必要がある。現在のNSRの船舶通航量であれば、ヨーロッパ北部の大陸部から、大気、河川を通じて北極域に運ばれる汚染源の影響度が、船舶より遥かに深刻である。NSRの汚染によるものか、陸域からの環境影響なのか識別することは難解な問題である。