運航コストの積算
運航コストを表す指標としては、運賃(Freight Rate)が一般的に使われる。これはある航路に船を投入した場合、1年間の所要総経費と総輸送量からトン当たりの輸送費を計算し、それに期待利益を加え、運賃として表示される。北米ガルフと日本間の穀物の運賃は12$/tonなどと表示される。しかしながら、NSRのシミュレーションにこの方法を適用すると、月別、各海域別の速度などの重要な因子が分析できないので先ずは、月別の1航海に要する運航コストを計算し、その後、年間の運航コストと航海回数から運賃を積算した。何れも、ここでは利益を含まない運航コスト(Freight Cost)である。往復とも積み荷は満載状態を仮定して運賃を計算した。
月別の運航コストシミュレーション(Monthly Voyage Simulation)
月別の1航海の総運航コストを計算する。月別、海域別の航海速度などの傾向を調べるために行った計算である。この計算では航海の起点は北航路、南航路では必ず横浜で始まり、ハンブルクで終わると仮定し、月初めに横浜を出港することにした。航海日数が1カ月以上要する場合は翌月のデータを使用する必要があるが、ここでは、氷況データは出港月のデータをそのまま使用し、データの不連続性を排除することにした。本方法はMonthly Voyage Simulationと称し、略してMVSと表示する。地域航路ではDikson、Tiksiを起点とした。コストデータ(表4.4-5)が年単位で与えられたものは、本計算では適宜、月割り、日割りに換算し用いた。計算プログラムは、各セグメントの航行時間を計算し、発生するコストを計算するフローになっている(図4.4-6)。
通年運航コストシミュレーション(Annual Serial Voyage Simulation)
ある航路に、ある船を運航した場合の1年間に要する総運航コストと総輸送量から運航コストを算出する方法である。本計算では横浜からある年の1月1日に出港すると仮定した。横浜、ハンブルグ間の往復回数を計算することになる。即ち、ハンブルクに入港すると荷物の揚げ積みのために6日間滞在し、直ちに横浜に向けて出港することになる。横浜に入港し、6日間後またハンブルクに向けて出港することになる。この計算を繰り返す。1年の最後は、航路の途中にあるが入港するまで計算を延長し、日割りで年間航海回数に換算した。各港での滞在日数は実績値から決めた。またシミュレーションの途中で、月が変わる場合は忠実にその月の氷況データを使うことにした。氷況によりスエズ運河を選択する最適運航の計算には、本計算を適用し、最終的な運賃として評価した。本方法はAnnual Serial Voyage Simulationと称し、略してASVSと表示する。図4.4-7に計算プログラムのフローを示す。