日本財団 図書館


ロシアの法制度の主たる問題点

INSROPではNSRの通航規則と国連海洋法条約との整合性について種々議論されている。主たる論点を以下に述べるが、適用海域の範囲と通航科料に関して指摘する意見が多い。問題はあるが、NSRを通航する外国の船舶はNSR通航規則に従わざるを得ないのが現実である。

1) 環境保護と安全性を理由に通行料を船の種別とトン数に応じて徴収するようになっているがロシア船に対して徴収しているか疑問である。これは差別なく規制することを求めている234条に反している。カナダ、米国はこのような通航料は要求していない。

2) 通航料は提供されたサービスに対して個々に支払われるものであり、単に領海を通航しただけで強制的に支払いを求める現行法は無害通行権を認める26条に反している。まして排他的経済水域まで拡張することは出来ない。

3) 230条は外国船による損害に対して金銭的な賠償のみを認めている。故意による重大な汚染を除き、領海内における相当の限度を設けている。しかしながら現行のロシアの法律では排他的経済水域における環境法違反は刑事罰の対象となる。また必要な場合は停船、逮捕、違反者の排除を認めている。

4) 234条は排他的経済水域の範囲での権利を認めている。現行のロシア法律は200海里にその範囲を限定しているか曖昧である。"marine area adjacent to the northern coast"とだけ表現している。排他的経済水域の外側である公海(High Sea)を恐らく含むものと思われる。米国は明らかに排他的経済水域の範囲で規定し、カナダは基線から100海里の範囲で規定している。

ロシアの公海を含むと思われる表現は国際的に受け入れられないと考えられる。

 

排他的経済水域

EEZ(Exclusive Economic Zone)とは、海洋法条約55、57条により、領海の外に接続して基線から200海里以内で設定される。沿岸国は、上部水域、海底及びその下部の天然資源の探査・開発・保存・管理のための主権的権利を有する。他国は、航行、上空飛行の自由、海底電線やパイプライン敷設の自由を享有する。EEZは、大陸棚制度と異なり、沿岸国が立法措置等により設定して初めて存在するもの。

 

カナダ北極域船舶汚染防止規則(CASPPR)

Baffin湾とBeaufort海を結ぶ北西航路(North West Passage)についても、北極海の島々の海峡では、海峡の両側の基線から測った幅12海里の領海が重なることから独自の法律に基づき、北極海の諸島間の海峡を全て内水(Internal Water)であることを、カナダ政府は宣言している。また領海、排他的経済水域についても規定しており、外国船はカナダの環境保護に対する法律に従うことを条件にして通航が許可される。カナダは排他的経済水域の範囲である200海里ではなく、規制の範囲は基線から100海里の範囲としている。これに対して米国などは反対しているが、米国商船はカナダの法令に従い運航されている。参考として、NSRを含む北極海全体の法制的な区分を概観した地図を示す(図4.3-1、WP-75)。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION