また、排水性能の優れた船尾bをもとに、その推進性能向上を図るため肋骨線形状のナックルラインを寝かせた。この新船尾を船尾dと呼ぶ。
新船型D-d及びDr-dについて、平坦氷中における抵抗・自航試験、旋回試験及び氷丘脈中における抵抗試験の4種類の試験を行った。また、開水中については、最も重要な項目である、平水中の抵抗・自航性能について試験を行った。この中から、ここでは、平坦氷中の旋回試験結果について示す(図4.1-20)。図には新船型の結果に併せて船首A及び船首Bによる結果も示す。図よりリーマー付き船首を備えたDr-d船型の旋回性能が最も良いことが判る。また、船型A-aと船型A-dを比較すると船尾の違いが旋回性能に与える効果も判る。リーマー及びS.S.1/2〜S.S.3までの喫水線近傍の肋骨線傾斜を寝かせ並行部を短くした船尾dの相乗効果によりDr-d船型の旋回性能が高まったものである。なお、従来船型では船首Aと船首C(図中では割愛)の旋回性能はほぼ同等であり、船首Bは旋回性能が劣る。
以上の試験結果をまとめて、各船型についての評価を行った。このような評価は、各船型の性能に対するデータをもとに本書4.4節に示したような航行シミュレーションにより行うことが最も望ましい。しかしながら、本研究の実施時点では、環境データ、特にNSR上における氷況の詳細に関するデータが未整備であったため、このようなシミュレーションは実行できなかった。このため、定性的に各般型の評価を行うことを試みた。
評価項目としては、平坦氷中航行性能、平坦氷中操縦性能、氷丘脈突破性能、平水中推進性能及び波浪中性能の5項目とした。それぞれの項目について、試験結果より各船型を5段階得点により評価した。また、各項目には重み係数を設け、この重み係数と得点の積を評価項目に亘って足し合わせた値により各船型の評価値とした。重み係数は、ヨーロッパからわが国までの航海を想定し、この中における氷中航行(カラ海峡とベーリング海の間)と開水中航行(カラ海峡とヨーロッパ及びベーリング海と日本)にかかる時間の見積もり、氷中における各性能の重要性等を勘案して決定した。評価対象の船型は、A-a、A-b、B-a、C-a、A-d、B-d、D-a、D-d、Dr-dの9船型とし、実験結果から直接の評価ができない船型については類似船型の結果から評価した。
評価結果を表4.1-7に示す。この方式で評価した場合、最も総合評点が高い船型は、Dr-d船型である。これは、氷中操縦性能をはじめとする氷中性能の良さを反映したものである。開氷中性能の低さを氷中性能が補った結果となっているが、この評価において氷中性能を比較的重視した結果とも言えよう。これとは逆に、C-a船型は開氷中性能の評価は高いが、氷中性能の低さが総合評点の低い原因となっていると言えよう。