特に、前述のラミング状態の操船を効率的に行うためには、船舶の推進システムは、充分な後進力を有するとともに、前進モードと後進モードとを迅速に切りかえられるシステムである必要がある。第三に、氷塊から受ける荷重に耐えられるものでなければならない。氷との接触によるプロペラ、プロペラ軸あるいは推進機関等の推進システムの損傷は、氷海域での航行安全を考える上で最も重要な問題の一つである。このため、前述のように、これを防ぐための様々な工夫が船型に採られているが、氷と推進器との干渉を完全に防ぐには至らない。プロペラと氷塊との接触は、プロペラ翼に強大な荷重を与え、軸トルクの急激な立ちあがり、アイストルクを発生させる。氷海船舶の推進システムは、このような荷重に充分に耐える強度、あるいは荷重を緩和する機構を有するものでなければならない。
このような要件を満たすものとして、電気推進システムがある。電気推進システムは、正・逆転の繰り返しを含めて軸回転数の変更並びに急激なトルクの変動への対応が、モーターの界磁電流を制御することにより容易に行えるという長所を持ち、現在多くの砕氷船に採用されている。発電用の主機としては、ディーゼル機関が主流である。原子力機関を主機とした電気推進システムも、ロシア保有の砕氷船等に採用されているが、安全性等の観点から一般的ではない。ディーゼル機関直結型の推進システムも商船を中心に氷海船舶に採用されている。この場合、前・後進を含めて出力変化の要求に迅速に対応するものとして、可変ピッチプロペラ(CPP)が採用される場合も増えている。図4.1-5に氷海船舶に使用されている推進システムの例を示す(岸他、1999)。また、ダクトプロペラも、高負荷状態において効率が良いと言う特性が氷海船舶に有利であることから、これを採用する船舶もある。ただし、ダクトプロペラの場合は、ダクト前面が氷片により閉塞されることに対する対策として、ダクト前面にフィンを取り付ける等の工夫がされた船舶の例もある。