日本財団 図書館


3.3.5 パドルの特徴

 

海氷中のブラインは氷の温度と平衡する塩分濃度を保つので、海氷の温度が変化すると、氷を析出したり、周りの氷を融かしたりして平衡の塩分を保つように変化する。夏に気温が上昇して氷温が結氷温度に近づくと、気温が氷点下でも氷中ブラインの量が増し、海水の重量の半分近くがブラインで占められるようになり、海氷は急速に強度を失う。

水面上の部分のブラインは海氷表面の凹凸の低いところに集まって、パドルと呼ばれる水溜りを作る。パドルは、日射を吸収して周囲の氷を融かし、大きくなり深くなる。気温が一時的に下がればパドルの表面に薄氷が張って蓋が出来るが、風があれば気温が氷点近くでも、蒸発の潜熱が蓋を維持する。蓋を通して入った日射の吸収によってパドルの中の水温はプラスの温度を示すことも多い。パドルの水の塩分は下の海水よりも低いので、融解が進んで、底が薄くなったり、底に穴があいても、密度の小さいパドルの水が抜け落ちることはない。多年氷の上のパドルの水は、ブラインを洗い流すので、多年氷の表層は塩分がほとんどない氷となる。夏の多年氷のパドルの水は、飲料水として使われることも多い。

 

044-1.gif

パドル(Fetteerer・Untersteiner, 1998)

 

パドルの形成は積雪の状態に支配されるが、緯度の低い沿岸定着氷から始まり、時と共に北極海中央部へと進む。NSRの沿岸では5月下旬にパドルが出来始め、北極海中央部では約ひと月遅れて6月下旬頃パドルが姿を見せる。パドルが姿を見せると、北極の短い夏の到来となる。海氷の内部融解の潜熱収支が、海氷を熱的慣性の大きな物質に仕立てて、融解の姿を遅らせ、海氷域の気温変化を抑える役割を果たしているからである。

 

044-2.gif

パドルの平均発生日(Romanov, 1994)

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION