3.3.5 パドルの特徴
海氷中のブラインは氷の温度と平衡する塩分濃度を保つので、海氷の温度が変化すると、氷を析出したり、周りの氷を融かしたりして平衡の塩分を保つように変化する。夏に気温が上昇して氷温が結氷温度に近づくと、気温が氷点下でも氷中ブラインの量が増し、海水の重量の半分近くがブラインで占められるようになり、海氷は急速に強度を失う。
水面上の部分のブラインは海氷表面の凹凸の低いところに集まって、パドルと呼ばれる水溜りを作る。パドルは、日射を吸収して周囲の氷を融かし、大きくなり深くなる。気温が一時的に下がればパドルの表面に薄氷が張って蓋が出来るが、風があれば気温が氷点近くでも、蒸発の潜熱が蓋を維持する。蓋を通して入った日射の吸収によってパドルの中の水温はプラスの温度を示すことも多い。パドルの水の塩分は下の海水よりも低いので、融解が進んで、底が薄くなったり、底に穴があいても、密度の小さいパドルの水が抜け落ちることはない。多年氷の上のパドルの水は、ブラインを洗い流すので、多年氷の表層は塩分がほとんどない氷となる。夏の多年氷のパドルの水は、飲料水として使われることも多い。