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3.2.2 北極海の海洋構造と深層水形成

 

世界の海洋の表面近くには、日射の吸収、風による攪拌、蒸発や降水の影響が直接作用し、波浪や対流による混合が盛んに起こる表層水が存在する。この混合層では水温や塩分が均一化され、その下には水温や塩分が大きく変化する躍層が見られる。外洋においては、水温躍層と塩分躍層の深さはほぼ等しく、夏には風による混合がおよぶ深さで10〜20m程度と浅いが、冬には対流混合のおよぶ深さとなって200m以上に達する海域もある。

北極海の海洋構造の特徴は、水温躍層と塩分躍層の深さが大きく異なるところにある。結氷温度の混合層の中に、低塩分の表層と、深さと共に塩分が増す塩分躍層とが含まれる。このような海洋構造は、多量の河川水流入による低塩分水の大陸棚上の広がりを舞台として、その低塩分水が結氷して高塩分のブラインを排出することによって作られ、夏にその氷が融け、また多量の河川流入水が加わることによって維持される。このような条件が満たされる海域は世界の海に他にはないから、北極海にのみ見られる特徴であるといえる。

 

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北極海の水温・塩分鉛直分布と塩分躍層の形成(Carmack, 1986)

 

フラム海峡を通して、高温高塩分(水温3〜4℃、塩分35‰、塩分の単位‰は次節参照)の北大西洋水が西スピッツベルゲン海流として北極海に入り、塩分躍層の下に中層水として潜り込む。一方、北極海の表層低塩分水(水温-1.5〜+2℃、塩分31‰)は東グリーンランド海流として北大西洋に流出する。その流量は毎秒約350万トンと見積もられる。太平洋側のベーリング海峡は、毎秒約30万トン程度の北極海への流入である。沿岸の大河からは、年間平均で毎秒約10万トンの淡水供給があるが、季節変化が極めて大きい。

塩分躍層の下に入り込んだ北大西洋水は、上の低温塩分躍層の水に熱を奪われて、一層重くなって沈降し、低温高塩分の北極海深層水を形成する。グリーンランド海やアイスランド海でも、冬に発達するアイスランド低気圧の影響により、深層水の湧昇や深い対流が起こり、深い所にまで冷却がおよんで低温高塩分水が形成される。グリーンランド海、アイスランド海の深層水がデンマーク海峡を越えて北西洋深層水を形成し、世界の海洋を約2千年かけて一周する地球規模の深層水循環の供給水源となる。

 

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北極海の海洋循環と深層水形成(Aagaard, 1985)

 

 

 

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