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3.1.4 北極オゾンホールと有害紫外線増加

 

大気中のオゾン(O3)は、大部分が成層圏に存在する。オゾン密度は、高度20〜30km付近で最大となり、地表面の10倍近い値を示すので、オゾン層と呼ばれている。オゾン層は地球をすっぽりと包んで、太陽から降り注ぐ有害紫外線を吸収している。

1970年代に、フロンガスがオゾン層を際限なく破壊する可能性が指摘された。オゾン層破壊は有害紫外線の地上到達をもたらすので、皮膚ガン発生率の増加や主要農産物の収穫減少などの懸念があると指摘されて、フロンガスの使用禁止運動が始まった。1980年代になって、昭和基地で南極の春にオゾン層のオゾン密度が異常に減少することが観測され、諸外国の南極基地でも同様の現象が確認されて、オゾンホールと呼ばれるようになった。1990年代になると、北極でもオゾンホールと呼べる状況が観測された。

全大気を標準状態(0℃、気圧)にすると、その厚さは約8,000mになる。同様にオゾンのみを集めた厚さがオゾン全量と定義され、オゾン層研究者ドブソン(Dobson,G.M.B.)の名前をとってドブソン・ユニット(D.U.)という単位で記録されるようになった。オゾン全量は通常300〜500D.U.位であるが、南極のオゾンホールでは120D.U.位の極小値が観測され、北極では250D.U.位の極小値が観測されている。紫外線は、可視光線に近いほうから長波長紫外放射(UVA:400〜320nm)、中波長紫外放射(UVB:320〜290nm)、短波長紫外放射(UVC:290〜200nm)に分類される(単位nmはナノメートル)。太陽紫外放射のうち、UVCはオゾン層で完全に吸収されて地表には到達しない。一方、UVAはオゾン層でほとんど吸収されずに地表に到達する紫外線である。UVBの地上到達量は、成層圏オゾン量の増減によって変動する。一例としてギリシャのテッサロニキにおけるオゾン全量とUVB到達量の1990年代の推移を示した。両者に見られる大きな季節変化と逆相関に加えて、オゾン全量の減少傾向、UVB到達量の増加傾向が現れている。UVB被曝は、上述の皮膚ガン発生率や主要農産物の収穫減少のほかに、遺伝子のDNA損傷を起こすことが指摘され、メカニズムの解明や防御・治癒プロセスの研究が急がれるとともに、北半球のオゾン全量と地上到達UVBの観測が重点的に行われるようになった。

 

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北半球のオゾン全量分布(NASDA/NASA 1998)

 

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オゾン全量とUVB地上到達量の推移(Zerefos, 1997)

 

 

 

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