さらに水に親しんでもらうため、毎年ボートレース、カヌー祭りなどを開催する他、徳島市内では昭和30年以降中止されていた寒中水泳大会を復活させました。また12年前から「見直そう新町川魚釣り大会」も開催しています。徳島市内の川は昭和40年が最も汚れがひどく、BODが40ppmほどありました。あまりにも臭く、阿波踊りの時期には消臭剤をまいていたほどです。現在では数値も2〜3ppmに減少し、スズキ、チヌ、ヒラメなど30種類以上の魚が戻ってきました。毎年200〜300名の参加があります。もし将来、川が汚れた時でも、この魚釣り大会に参加した子供たちが立ち上がって欲しいと願っています。
私たちが活動を行なうと、住民もどんどん川に関心を抱くようになります。会員も220名になりました。何よりも楽しみながら活動することを第一に考えています。
1952年生まれ。1976年京都大学農学部水産学科卒業。1983年同大学大学院農学研究科博士課程水産物理学専攻修了。同年林崎漁業協同組合に就職。現在企画研究室室長。沿岸漁業の維持安定が地域社会の環境と文化を育むものとして、現場活動とまちづくりに、おいしんぼ感覚で取り組んでいる。
魚が落ち着いて生息できる環境とは
鷲尾 私は海の中からの視点でお話ししたいと思います。これからのベイエリアでは、どのような環境を育くんでいけば良いのでしょうか。どうも今までは、人間のペースでやりすぎてしまったようです。海には多種多様な生物がいますが、それぞれが一生を終える時間や生活スタイルは全く違います。それらの生物が複雑に組み合わさった生態系は、一朝一夕にできるものではありません。さまざまな生物が自然な状態で生息するようになるには、場合によっては何十年もかかります。
例えば1匹のタイが子供を産むには3〜4年かかります。タコやイカナゴは1年ですから、比較的環境変化に耐えやすいのですが、カレイ、スズキ、アナゴも2〜6年かかります。そういう魚たちがある一定の環境に落ち着くには、3〜5世代かかります。魚たちにとって安定した海の環境が整うには、時間がかかることがおわかりいただけるでしょう。
明石海峡は水質が良いと言われますが、良い水質というのは「水がきれい」という人間の感覚とは違います。「水清ければ、魚住まず」という言葉もあります。「水がきれい」ということは栄養や餌がないということですから、魚が育たないのです。魚にとって良い水質というのは、「豊かな水」です。ごく普通の水でも、ある程度の時間、落ち着いた状況を保ってくれることが大切な条件です。
ではOHPで大阪湾の魚たちをご覧いただきましょう(図3])。今日ご参加の皆さんがお住まいの兵庫運河、徳島市内、淀川でもお馴染みのスズキ、ボラ、チヌ、コノシロなど河口域に住む魚たちは、大阪湾の大事な構成員です。沖のほうへ行くほど汚れに弱い高級魚が多くなり、港近くには真水にも汚れにも強い魚が残っていきます。汚れに弱い魚たちができるだけ大阪湾の奥のほうまで顔を見せてくれることが望まれます。
しかしボラ、チヌ、コノシロなども、大阪湾沿岸の人々が長い間大切につきあってきた魚たちです。今では見向きもされないボラは、かつては大阪湾沿岸のどの漁村でも大切な冬の蛋白源でした。現在この魚が海の汚染のために食べられなくなっているのは、非常に悲しいことです。
このような状況になったのは、海の環境がどんどん変わってきたためです。大阪湾の湾奥部には埋立地が広がり、取り残された水面が運河になっています。新たにつくられた陸地によって流れが妨げられ、どうしても汚れが淀みがちになりますから水質管理が難しい。大阪湾の環境基準でも、湾奥部に近づくほど基準を緩くしないと適合しません。それでも港湾区域や運河の水質は、なかなか基準を達成できない状況です。
図4]のグラフは兵庫県の海苔養殖の生産量を示しています。