イギリスのトップシャムという小さな漁村では、海辺の道沿いに木のベンチが並んでいます。ここで海を眺めていた方が亡くなられると、遺族がベンチを寄贈するしくみで、それぞれのベンチには亡くなった方を追悼するプレートがついています。自然に人々の憩いの場となり、特に休日は多くの市民が利用しています。
鳴門・徳島サイクリングロードにはとても心地良い場所があり、近所の方たちの散歩ルート、ジョギングルートとしても使われています。しかしせっかく海辺にある休憩用の東屋は、どういうわけか生い茂った植え込みの奥にあり、ベンチに座ると海が見えません。座って海を眺めることを考えるなら、ベンチを植え込みの前に置くなどの方法が必要になると思います。また、ちょうど歩く時の目線の高さに防波堤があるところや、風害から作物を守るために金属パイプと青いビニールシートで海側を防御しているところなど、海沿いのルートにも関わらず、海が全く見えない場所もあります。
徳島市内の新町川では、週末になると「パラソル・ショップ」が並びます。1日3千円でパラソルを貸して、ボードウォークの上で誰でも商売ができるシステムです。しかしあまりたくさんパラソルが並ぶと水際が占拠されてしまい、人々が水辺を歩くことができません。水際で休むスペース、歩くスペースを確保することは、大切なことです。
ルートをつなぐしくみ
スポット的に良い場所があっても、人々はそこだけに行くわけではありません。一日あるいは半日の行動として、つながったルートを描く必要があります。「The Best Pathfinder Walks」は、イギリス全土にある自然と歴史を探索できるルートを紹介した本です。どのルートでも、スタート地点には必ず駐車場があります。これは必ずしも公共駐車場とは限らず、近くにあるパブやレストランの駐車場に止めるよう案内されている場合もあります。ロビンフッドベイの海岸探索ルートの場合は、全長14.5km、4時間半程度の行程で、ルートの途中にあるレストランやパブ、眺望スポット、歩く時に便利なマップなども紹介されています。
イギリスには囲い込み政策の時代から「パブリック・ライト・オブ・ウェイ」というきまりがあり、たとえ民有地であっても、パブリック・パスとして指定された道であれば市民は通る権利を認められています。日本では私有地の中に市民が歩く道を確保することは難しいですが、イギリス人はこのようにルートの確保に執着し、必ずつなげようとしているようです。
小松島市の試み
最近は、快適な空間のためのアフォーダンスをなるべく市民参加で考えようという動きが出ています。
小松島港はかつては四国の玄関口として栄えた港でしたが、明石海峡大橋の開通に伴ってフェリーの航路が廃止になってしまいました。フェリーターミナルの建物は空いてしまい、人が集まるようなしかけがありません。そこで昨年の10月から、市民によるワークショップを行い、この周辺を再生させるアイデアを話し合っています。
みんなで考えると、1人では気がつかないことが見つかるものです。「食べる」というテーマでは、「海辺におしゃれなレストランをつくる」「地元名産の竹輪が食べられる店をつくる」などの提案が出ました。「遊ぶ」というテーマでは、「魚釣り大会をする」「旧合同庁舎でライブハウスをする」などの提案がありました。
今後はこれらの意見を行政で整理し、具体化する方法を考えていくことになります。実現するためには難しい問題もありますが、少なくとも市民の方々の港に対する思いを明らかにしていただくことはできますので、これからの動きを興味深く見守っていきたいと思います。
質疑応答
【質問】小松島のワークショップには、どのような方たちが参加しているのですか?
【山中氏】運輸省や行政の関係者、建築専門家、JCのメンバー、それから公募に応じられたフェリーターミナル前のお土産屋さんをはじめとする小松島市民、それに市外の方も参加しています。
【質問】イギリスのPFIで何か参考になる事例はありますか?
【山中氏】イギリスのPFIは、橋の建設など公共のために必要な大きな事業に導入されることが多く、駐車場やトイレなどの施設開放は彼らにとっては当然のことのようです。自治体は必要な施設を確保できる上、清掃など維持管理の手間が要りませんし、店は名前も上がり客も来やすくなるという利点があります。公園のオープンカフェなども同様のシステムで行われています。