ワークショップvol.12
なぎさトレイル─市民が親しみを感じる海の路の再発見
講演「楽しく歩ける海辺へ」 山中英生氏/徳島大学工学部教授
なぎさのアフォーダンス
なぎさとは、自然と都市とのインターフェースであると同時に、人々が交流する空間、自然の景観と人工的景観が接合する場でもあります。波音や磯の香りは、精神的なやすらぎを与えるような構成要素をもっており、人間にとって、海辺は一種の「癒しの空間」となっています。
高度成長期には、このなぎさを産業が占拠してきましたが、近年はそれを人間の空間に変えていこうとする動きが出ています。幸いなことに、大都市に比べ、地方のウォーターフロントには自然のままのなぎさがまだ残っています。外からたくさんの人を呼びこむことも大切ですが、むしろ地方都市では、市民自らが楽しめるような空間づくりを考えていくことが必要ではないかと思います。
環境のあり方やものの形において、動物の行動パターンを誘発するような要素を「アフォーダンス」といいます。これは心理学者ギブソンが唱えた説ですが、例えば人間が柵を越える場合、その柵の高さが股下の長さの一定倍数以下だと上をまたぎ、それ以上だと下をくぐるという行動パターンがあるそうです。
「歩く」「休む」「食べる」「遊ぶ」は、快適な空間を考える際に必要なキーワードです。「なぎさのアフォーダンス」に着目すると、水を眺めながら歩きたい場所、休みたい場所、何かを食べたい場所、水と遊んでみたい場所などを考えることが基本ではないかと思います。
人と車の共存のしくみ
歩行者だけの閉鎖された空間をつくるのが難しい場合は、できるだけ人と車を共存させていかなければなりません。イギリスのワイト島の海沿いの道路では、観光用のロード・トレイン、自動車、歩行者が共存しています。自動車がスピードを落として走行するような構造になっており、歩行者の安全が図られています。
フランスのニースにある駐車場では、車をゆっくり走らせるために、ハンプを設けています。
またイギリス西部のセント・アイヴスの漁村では、エリア内に居住する人や、ホテルに関係する車両以外の車が狭い道の集落に入らないように、訪問客は郊外に設置した大駐車場や鉄道駅からバスに乗るしくみになっています。
水辺を「見る」
快適な空間をつくりだすためには、静穏化のしくみだけでなく、水を見るための目線を考える必要があります。鳴門市北灘の海沿いの道路は、機械的なコンクリートの護岸が続いています。建設省の事業で立派な道が整備されたのですが、残念ながら、乗用車で走ると護岸が目線をさえぎり、海は見えません。
人間は、ちょうど目線の高さに塀があると、最もイライラすると言われています。走っている車からの視線確保という問題は、道路を設計する上でかなり大切なポイントになります。もちろん景観を重視するだけでなく、転落防止に配慮することも重要ですが、道路地盤を上げたり、柵と柵の間を少し広げることによって、より快適な海沿いの空間づくりができるのではないかと考えます。
水辺で「休む」
水辺では、「休む」ということもたいへん重要なキーワードになります。シドニーのオペラ座近くでは、パラペットを使って、シンプルながら思わず座りなくなるようなベンチをつくっています。