12項目の要望の中には、「公共建築物をまちなみ景観に相応しいものにする」という項目もありました。ブロックを積み重ね、無機的なシャッターで開閉していた消防車の車庫は、機動性のある木製の格子戸になり、公民館の駐車場も、まちなみに合わせた白壁の外壁に変わりました。
ふるさと海岸整備事業
12項目の要望には、海岸整備も含まれていました。坂越の海岸沿いは約1kmにわたって、高さ2m50cmのコンクリートの直立護岸に囲まれています。これは、昭和39年の室戸台風でたいへんな被害を被った際、当時の市会議員が建設省と交渉し、高潮対策事業として施工されたものです。しかしこの護岸は、住民に対して何の説明もされないまま整備されたものでした。海岸沿いを歩いているにもかかわらず、海が全く見えない状態で、まるで刑務所の横を歩いているような感じすらするほどです。
平成5年8月、市から運輸省港湾局の「ふるさと海岸整備モデル事業」の指定を受けてはどうかという打診がきます。会では1]安全性の確保、2]生島を守る、3]工事に際しては必ず住民と相談する、という3つの要望を出し、すみやかに指定を受けることにしました。
また「ふるさと海岸整備モデル事業」の第1号に指定された日向の美々津海岸を視察し、離岸堤を整備すれば、坂越と同じようなコンクリートの直立護岸を親水性のある階段護岸に変えても、安全性と景観の両方を確保できるという話をうかがってきました。着工前の生物調査は、春夏だけでなく四季を通じて行ない、その結果を住民に公開しました。
計画では、まず離岸堤を設置し、現在の護岸の海側を一部造成したり、親水性のある階段護岸を整備し、最後に水圧工法で護岸の高さを現在の半分に切断することになっています。テトラポットは取り払います。また、昭和50年の集中豪雨の被害経験から、断面が2m四方の排水口も整備しています。
この「ふるさと海岸整備事業」は、10年計画、30億円の予算で進んでいます。ようやく工事の半分が終わったところで、今後はお祭り広場、海水浴場が整備される予定です。
建設省住宅局のまちなみ整備事業
平成7年には、建設省住宅局のまちなみ整備事業の申請が通りました。地区内の道路修景のための調査を行ない、「歴史ゾーン」「景観ゾーン」「住宅ゾーン」の3つのゾーンに分け、それぞれのエリアに適した道路整備を行なうことにしています。また、地区内の文化拠点に、徐々に近江陶板でつくった解説板を設置しています。設置前にはその文章を公民館で公開して、住民に検討してもらっています。街灯もまちなみに合わせたものを整備しています。
住民と行政が力を合わせたまちづくり
まちづくりで問題となるのは、住民不在で事業が強引に進められたり、予算はついても住民の合意が得られない場合です。坂越では、「まち並みを創る会」が窓口となって、住民の要望を行政に伝え、行政の要望を住民に伝える方法をとっています。工事に関することは、どんなに細かいことでも、必ず会から住民にお知らせします。手間がかかってたいへんですが、会が熱心に活動すれば、住民も行政も真剣に対応してくれるようになってきます。約600世帯、全てに満足してもらえるのはなかなか難しいですが、このようなコミュニケーションはまちづくりでは一番大切なことです。
住民が自分の住んでいる町のことを学ぶのは、物知りになるためではありません。自分の町を「知る」ということです。自分の町を知ったら、やはり誇らしい気持ちになり、町を愛するようになります。これからも、坂越の自然・歴史・文化を原動力に、住んでいる人が心地良いと感じるまちづくりをしていきたいと思っています。
質疑応答
【質問】「まち並みを創る会」と漁協との関係はどうなっているのでしょうか?
【若松氏】漁協の組合長には、「ふるさと海岸整備事業」の協議会で三役に入っていただき、調査にも全面協力していただいています。しかし、漁協の補償金問題については、直接行政と話し合っていただいています。