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今後、VTSの役割が航行の安全になってくるとすれば、VTSは水路の航行についての指示も出すことになるであろう。つまり陸上からの水先案内である。これに対しては従来からの水先案内人にしてみれば心境は複雑であり、反対を表明している水先人組合もある。しかし、大勢は少しずつ変わって行かざるを得ないのではないか。となれば、VTS区域内の安全航行のためには、船長と水先案内人、VTS運用官の相互の信頼関係が確立されなければならない。そこで運用官の技能訓練の重要性が認識されることになる。IMO、IALAが、近年VTS要員の採用、訓練に特に意を注いでいるのもその辺に理由がある。

これについて、米国コーストガードのサンフランシスコVTSの訓練コーディネーターからの興味あるレポートがある。このレポートによれば、サンフランシスコ湾では船舶が一方的にVTSの援助によって航行しているのではなく、VTSが重要な役割を果たして協力しながらチームワークで航行しているのだという。サンフランシスコVTSは、船橋チームの一員となって積極的に操船に参加しているというのである。そのためにサンフランシスコVTSの当直要員は、年間に少なくとも10回の乗船経験をし、他の色々な海運施設も訪問する。また、船長、水先案内人とその候補生は、VTSセンターで、VTSに慣れ親しむために当直に入る。更に、年間3000人以上の小型船運航者に交通管理の研修を実施しているという。

これは、今後のVTSのあり方に一つの示唆を与えているように思える。航空交通においては管制官が非常に大きな責任と権限を持っている。交通量、航行速度、立体航路と平面航路、その外色々と重大な違いが航空機と船舶にはあり、そう簡単に改革されるとは思えないが、それでも航行安全の確保という面から、VTS業務のあり方に変革が訪れようとしていることは看過すべきではないであろう。

要員の訓練については、これまで各国まちまちであった。当直員に必要な知識は、それぞれのVTSの目的、区域、地形、対象船舶その他によって異なる。したがって、現地でその実情に合わせて研修をするというのが大半であった。それも当然で、例えば河川のVTSと外洋に向けたVTSとでは、目的も提供するサービスの内容も全く異なるのである。しかし、VTSが世界に普及し、その重要性の認識が深まるにつれて、VTSへの期待も少しずつ変わってきつつあるのである。

このシンポジウムは4年ごとではあるが、色々な意味で、正式な国際会議では得られない各国の動向の実情を知ることが出来るので、我が国の施策を更めて考察してみる端緒ともなり得る良い機会であると思われる。

 

 

 

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