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聖書の「使徒行伝」20・35には、「受けるよりは与える方が幸いである」という言葉があります。戦後日本の教育は個人の権利を主張することだけを目標において来ました。損になることは黙っていない、というのが戦後の人権教育の主流を占めました。しかし損になることを知りつつ、他人のために尽くせることこそ、人間の魂が偉大な存在であることを示しています。

こんなところで副賞の金額のことを持ち出すなど、型破りなことは承知いたしておりますが、今日、皆さま方にお贈りする百万円は、ささやかな感謝の表現として、私が強く希望して決めた額です。

もし皆さま方のお宅のお風呂場、お台所などが古くなっていらっしゃいましたら、このお金で気持ちよくなるよう修理をなさってください。もし、このお金で皆さまの足となる質素な軽自動車が買えるなら、そしてもし、皆さま方がお嫁に行かれたお嬢さんや大学生のお孫さんとハワイ旅行にいらして頂けるなら、私はこんな嬉しいことはないのです。お贈りする副賞の額は、そんな思いで決めました。

昨日はもう一つ嬉しいことがありました。10月22日、インドネシアのクアラタンジュン港から、アルミのインゴット約7000トンを積んだまま姿を消していたアロンドラ・レインボウ号の日本人船長と機関長を含む乗組員十七人全員が、救命いかだで漂流中、タイの漁船に救助されたというニュースが入って来たのです。海賊が乗組員をそのような形で海へ追い出したということです。ずっと心配していましたので、心の重荷がおりたような気持ちでした。私たちの知らないところで、こうした人命救助が行われていたのです。改めてこのタイの漁船の船員の方たちにも遠くから感謝をいたしましょう。

どうぞ皆さま方は、今後共、お元気でお仕事を続けられ、図々しいお願いではございますが、合わせてなおも人の分までお心をお分かちくださいますよう心からお願いいたします。そして最後になりましたが、このようなすばらしい方々をバックアップしてこられましたご家族、ご友人の方々にも、心からのお祝いを申しあげます。

1999年11月10日

曽野綾子

 

 

 

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