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混雑しており、浅くて、狭い通路であるマラッカ海峡に沿っている最も慌しい航路は、海上安全と環境的な安全という両面で懸念される地域である。超大型油送船が満載状態で年1100隻以上も海峡を東航しているが、その多くが、船のキールと海底との間隙を1〜2メトル余りで通過している。28)マラッカ海峡を通って運送される原油の一日平均は7.8百万バレルである。29)スンダとロンボック―マラッカ間の海峡は、その深さや幅からみてマラッカ海峡よりは恵まれているものの、マラッカ海峡に比べると、接近するのが難しく、航行支援は劣悪である。30)しかし、これらの海峡は、海賊行為によるマラッカ海峡の閉鎖の場合にやはり代替航路を提供することになるだろう。毎年世界貿易の15パーセント以上が東南アジアを通って行われている。これらのシ−レーンを通る東西貿易は、東南アジアの経済のみならず、日本、ヨーロッパのため、また香港、台湾、韓国、アメリカや中国の新たな産業経済のためにも重要である。31)

シ−レーンにおける海賊行為の発生率は、今のところ、商業取引先に渡される特別経費と、余計な日程の遅延を引き起こしているだけである。しかし、私は、海賊行為が頻繁になって、いずれか海峡の一つが閉鎖されるようになって、始めて、海賊問題は、根絶に向けて一致協力した国際的、商業的努力を喚起するであろうが、それくらい重視されるべきであると主張するものである。シ−レーンの閉鎖に至らない程度の海賊行為の影響は、経済的、政治的な経費としてただ吸収されて行く筈である。

そういう訳で、海賊の撲滅に向かってなされている最低限の努力は続けられるだろう。32)とても残念なことには、商業関連や国際的な機構からの財政上及び法律的なサポートが十分行われていない今の状態が続けば、IMBやRPCのような公共機関の努力は海賊行為に対して地味な影響しか与えないであろう。

 

9 海賊行為の趨勢

 

市場環境として、海運業は、現在の海賊の発生率では十分な関心をもつほど重要ではないと結論付ける程度の海賊対策費の分析をしてきたことが本音である。多くの場合、海賊行為が国民の幸福感を脅かすほど深刻に見なされていない理由から、各国は海賊行為を簡単になくそうとする政治的意欲が不足したまま今日に至っているのである。

 

これらの同じ公共機関が、海賊の襲撃時の凶悪性が一層進んだことを見過ごしているようで、その点も心配になる。イギリスにあるIMBのEric Ellen局長のような、主要な関係官は、運送船への海賊襲撃による凶悪性が進むことに対して国際的な注目度を上げようと絶えず努力してきた。乗組員が晒されている海賊の危険度が低下されるためには、人の安全に対する基本的な考え方が、凶悪化予防の意気込みを十分保証出来るほど確固たるものでなければならない。国際航空ハイジャックと同じように、事件の発生頻度と被害の比率が同様に高ければ、世界が海賊問題にもっと協力的で意欲的なやり方で取り組んでいるに違いないだろう。それでは何故海賊問題は同じ注目を受けられていないのか。ここで私は、この問題の取締まりを援助しようとする国際的、商業的、政治的な意思が、残念ながら、欠如していることを再び指摘しておきたい。不幸にも、海賊の撲滅に向けた将来のいかなる努力も、世界中の船員たちが直面している危険はほとんど考慮されないで、商業的、政治的な決定によって大きく左右されると思われる。とどのつまり、増加傾向にある海賊行為の危険で残酷な性質及びこの問題の人道的な側面には、一層の国際的協力を必要とすることになるのである。

 

 

 

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