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商船に対する海賊行為の影響を理解するためには、先ず事件発生率に対する全世界の海運の規模を比較してみることが重要であろう。ここ10年来、報告された全世界の海賊発生件数は年平均190件である。20)この数値は、同じ過去5年間の年平均90,000件にのぼる商業上の'航海実績'に比べると少ないように見えるし21)、これは毎年商船が直接海賊による被害を受けるのは480分の1回(0.2%)ということを意味する。この数字は大変低い発生率を示しており、何故海賊行為がずっと国際的にも、又商業的にもそれほど注目を集められなかったのかが判る。22)

このように注目度が低いのは、現在全世界の海運業はその運送余力を楽しんでいるという事実によるとも言える。23)運休状態の輸送容量があるため、海賊による損失や不便さを効果的に吸収しているのである。経済的な視点から、現在の発生率で海賊行為の影響は、低い乗数効果をもっていると評することが出来るだろう。結局、運送業に負わせられた費用は、長期的には産業から得られた総収入に多少の影響を残したまま、海運市場に配分されるため急速に減少する結果となる。海賊行為のもたらす影響がどれぐらいになろうとも、ただ、運送余力に吸収されてしまうのである。

海賊事件で運送、保険又は経営や補修費のような費用がかかろうとも、会社はその被害額を、積み荷や商品を委託した輸出入業者にシッピンッグレートの増加という形で簡単に負わせることができる。このように商船会社はメッセンジャーとして働くのみであり、一般的に海賊事件の直接的経済負担から逃れることが出来る。確かに、マラッカ海峡や南シナ海、ソマリア海岸のような危険度のもっと高い地域で活動している会社は、こういう費用の矢面に立っているのである。しかし、国際海運業全般からみれば、海賊の被害による商業上のマイナスは、ただ‘必要経費’となりつつある。24)要するに、海運業では通常経験している海賊行為による遅延は、先に挙げた一部地域でもっと拡散されているが、「今のレート」で不便なものとして産業界が総体的に吸収しているのである。

 

8 東南アジアに関する事例研究

 

具体例として東南アジアを取り上げると、この地域の主要航路からコースを変える、つまり会社が、海賊事件が余りにも多くなったので、航路を再調整する場合、運送会社の航路選定に関する検討は興味深いものであろう。25)図−6「主要通商航路と海峡」は、東南アジア地域を通るシ−レーン(SLOCS:Sea Lanes of Communication)を表わしているものである。26)この地域での大部分の貿易は、東南アジアの国の殆どが半島や島であるために、海を利用しており、陸上運送網のための経済基盤はそれほど開発されていない。そのシ−レーンはいくつかの主な海峡、つまり最も重要なところ、つまり、東南アジアに位置するマラッカ周辺、スンダ周辺、ロンボック周辺、そしてマラッカ海峡に集中している。27)これらのシ−レーンは、燃料の再補給と積替えのための主要な接点となっているシンガポール港と共に、マレーシア、インドネシア、シンガポールの海と交差している。

 

 

 

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