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c項の海賊行為は、海運仲間では幽霊船現象(Phantom Ship Phenomena)と呼ばれている。10)このタイプの海賊行為は伝統的なパターンがある。まず船舶が、高度な訓練を受けた海賊に襲われた後、海上でそのまま他の海賊や個人的な人脈による競売者(private bidder)に売買される間、船舶の貨物は別の小さな船に積み替えられる。そして船舶は、海賊が新しい貨物の運送を預かることを承諾するための偽造書類と共に不正に再登録される。新しい積み荷は再び他の船舶に移されて、港を転々として、前もって打ち合わせておいた買い手に売られ、予定された届け先に運ばれることは絶対になくなるのである。このような海賊行為の様々なタイプの損失に関するもっと詳細な分析は後で述べる。

 

4 海賊行為の特徴

 

武装レベルによる海賊行為の分類のほかに、さらに海賊行為には広く認められている4つの一般的な特徴がある。第一は、海賊行為は歴史的に海岸地域における問題として、低開発または急速な開発と共に存続してきて尚も続くだろうが、その開発は一握りの人々だけが利用しうるものである。このような状況のなかで、一般民衆の大部分は、裕福な階層から経済的に疎外されており、彼らはぎりぎりの生活を支える手段として安易に海賊行為に走ってしまうのである。これは、海賊のこのようなタイプが貧しい生活の結果であって、その行動に責任をもたなくても構わない、と主張するためではない。単に、彼らが何故このような生き方を採るようになったかを知っておく必要があるのである。11)

 

第二は、海賊行為は、世界の一部地域で頻繁に発生しており、その理由は襲撃時に国家レベルの後おし又は共謀が明らかにあるということである。密入と賄賂のような海賊行為は、軍隊や警察の闇の収入になることがあるが、そういう地域官庁の黙認がある限り、海賊行為は盛んに活動するだろう。確かな証拠を入手できない状況ではあるが、多くの海事機構は、一例として、中国の税関やインドネシアの軍の地方幹部らが海賊の活動に関与し、あるいは管轄地域内で勢いが衰えないまま野放しにしていると非難されている。12)

 

第三として、海賊事件の統計は正確ではない。なぜならば、多くの事件がマレーシアのクアラルンプールにあるRPC(Regional Piracy Center)のような調査機関に報告されていないのである。13)船長とその代理人としては事件を報告することに抵抗を感じるからである。それは事件の調査のために、船舶が待機させられる間の遅延は課税の元になるからである。その上、船長達は、そういう出来事は被害を受けた運送船に更に高い保険率をもたらすという、船長としての能力に悪影響を及ぼす可能性があると考えるのである。例えば、海賊事件の調査による運航遅延のため、一隻当たり、運送収益として平均US25,000/日の損失を被る結果になる。14)イギリスにあるIMBのEric Ellen局長は、このような理由で事件の3割近くが報告されない状態であると言う。事件は、乗組員の死亡やケガなどに繋がった場合のみ報告されているのである。15)

 

 

 

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