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この条約は、国連海洋法条約の条文に類似する主権を巡る微妙な点を尊重していて、やはり、領海内の航行船舶に関係規則の管轄権を適用する段階までは至らなかった。4)結局、海運社会は、海賊行為と海上テロの両者についての国連海洋法条約の定義と共に、全世界で発生している大部分の事件に対応出来ない状況で残されているのである。このように、国際犯罪の多様性に対応できない定義は、海賊行為を効果的に制圧する上で、あらゆる面から障害となっている。5)

 

この論文において以後‘海賊行為’という用語を用いる場合には、国際法上の狭義の意味を採らない。しかし、影響力のある国際海事局(IMB:International Maritime Bureau)によって、海賊行為に関する1992年6月の報告書のなかで、「海賊行為とは窃盗や他の犯罪を犯す意図で、またその行為のために武力を使う可能性をもって、船舶に乗り込む行為を指す」6)という定義が示された。航行中の船舶に対する行為のみならず、港や停泊地に停泊している船舶をも含めている点で、従来の定義より広義のものである。その上、海賊事件の益々の凶悪化傾向にも触れており、また、単なる短期抑留の攻撃以外に長期航行の船舶のハイジャックを包含できるほど拡大定義されている。この定義では、合法的な管轄権を与えるわけではないが、少なくとも事件がどこで起きようと適用することが出来るのである。確かに海賊行為に対応するために、国連の管轄権は領海まで達しなければならないし、海賊行為の今日的性格をもっと明確に表現するためには、その定義を再確認しなければならない。

 

3 海賊行為の分類

 

以下のリストは、IMBがまとめた海賊行為の分類である。

 

a. LLAR (Low Level Armed Robbery・低レベル武装による略奪):この種の海賊行為は、通常武器を保持していないか、それともせいぜいナイフ程度の武器を持った小人数の集団が、航行中または港に停泊している船舶に粗雑で無計画な攻撃を加えることである。これは「Hit−Rob−Run」とも称される。普通この種の攻撃目的は、現金や携行品の高価な物で、窃盗の平均的な被害額は5,000−15,000USドル程度である。

b. MLLAR (Medium-Level Armed Assault and Robbery・中レベル武装による暴行と略奪):この場合は結構組織化された集団による武力攻撃と窃盗の形で生じ、重傷者や死亡者がでるが、通常は重武装しており、母船又は隔離した本拠地から行動を起こす。8)

c. MCHJ (Major Criminal Hijack・本格的なハイジャック犯罪):この種の攻撃は、正確な情報源に基づき緻密な計画のもとに国際犯罪グループによって行われるが、よく訓練されており、小火器あるいは迫撃砲や肩撃ちミサイルのような乗組員用武器も十分使いこなす準備が出来ている工作員で構成された大規模な集団が実行する。9)

 

 

 

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