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最近の海賊行為とその影響(海事特別レポート)

Naval and Maritime Special Report : The Impact of Contemporary Maritime Piracy

 

Lt(N)IDH ウッド (Wood)

 

出典:The World Wide Web Virtual Library : Copyright 1999 Lt(N) IDH Wind, Royal Military College of Canada, June 23. 1999

 

翻訳:若林保男

 

1 はじめに

 

海賊行為は国際犯罪として昔からあった概念であり、海が貿易にずっと利用されて以来、海上貿易に大変な影響を及ぼしてきた。なぜ海賊問題はいまだに起きるのだろうか。海運組織及び国家機構は、この昔からの問題にどれだけの犠牲を払い、どのような方法で海賊行為を阻止することができるのだろうか。この避けてはならない疑問を徹底的に分析する必要がある。

 

この問題点の所在を明らかにするために、まず、一般に認められている海賊の定義を注意深く読めば、この問題に関連して、法律上又は管轄上の難しさが強調されていることに気付くのである。ここでは、海賊行為の現実の多様な分類及びその現象の一般的特徴について検討し、次に、世界の被害地域について包括的に記述することによって、読者が今日の複雑な海賊行為に精通出来ることを願っている。そして、実際に報告されている統計を見れば発生件数は減少傾向を示しているが、海賊の凶悪性は強まっているという明確な証拠がある。しかし、海事機構及び国際貿易に対する海賊行為の影響に関して検討をさらに進めると、この報告書の中心的なテーマが理解されるだろう。私は、この問題に関連する貨物、保険、運航、そして人件費の具体的な実例をもって、世界の海運界に与える海賊の影響について一般論を述べるものである。また海賊行為が、地域的、国際的貿易機構に与える影響はそれぞれに程度に差がある事も示されよう。例えば、世界の海運業の規模と比べれば、これとは逆に、海賊の年間発生頻度数は比較的かなり低いという事実からして、海運関係者の人的被害は、海賊行為の凶悪化が主な原因と思われるのである。この影響を様々な角度から見ることで、海賊行為についてもっと分析した論を提示できるであろう。その後で、海賊行為が更に悪化するならば、マレーシア、インドネシア、フィリピン近海において賑やかな貿易航路の一つが閉鎖状態になるという悲観的な面にも1)注目している。そして最後に、今日の海賊行為の被害に対処するために、努力の現状と将来必要な方策を示するものである。1)

 

2 海賊行為の定義

 

1982年の海洋法に関する国際連合条約(以下、国連海洋法条約という)第101条に成文化されている海賊行為の定義は、残念ながら狭い範囲に限られているものである。「暴力と抑留を伴う非合法的な行為…個人の目的のために…公海上での…特定国の管轄権の範囲外で」2)と書いてある。不運にもこの条約は、領海で頻繁に起こる海賊行為に多少の影響を与えるだけなのである。過去10年に亘り報告された世界中の海賊による被害の8割以上は、公海上より、各国の領海や港、停泊地で起っており、国連や他の国際法に関連する制度では、調停するには十分な力が及ばないのである。3)

 

  国連海洋法条約の規定によると、海賊行為はただ「個人の目的」のことを扱っているわけで、政治上の狙いから船舶を抑留する集団のことは対象外なのである。1985年パレスチナ自由戦線(Palestine Liberation Front)によるイタリア巡航船Achille Lauroのハイジャックのようなテロは、国際法上から切り離された問題、とみなされている。政治的動機から生じる船舶へのテロを取扱うために、1992年には飛行判例(aviation precedents)に基づいた国連国際海事機構のローマ条約(Rome Convention of the UN International Marine Organization)が構想された。

 

 

 

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