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一方、<現実>は常にそこにあった。その前後の交渉のみならず、会議自体が、<理想>に向けながら、その<現実>に基礎をおいた体制・制度・手続きを作るための国際社会による誠実な努力はその際立った実例なのである。C.Willfred Jenksが考察したように、'全く頑迷な理想主義者が残ることによってのみ、我々は現在のジレンマを解決し、現在の不平を低減するに当たって現実的に対応することが出来る。'しかし、<理想>という概念のために、海洋法の制定作業等は複雑なものであり、関係国家間で<現実>はどのようなものかについての理解は様々である。

 

上記の関連用語を国際法制定会議の場面で考察すると、<理想>とはあらゆることの物質的進歩であって、<理想>はそういう目的を達しようと試みる心構えであると言えるかも知れない。我々は、その目的に向かって行動する格好の手段という感覚で、イデオロギーという言葉を使い得る。そして各国からの大半の支持及びそれに伴う新しい法律への遵法を導き出す最善の方法として、法律体系の細目を形成している体制・手続き・制度の基本を作る目的で、様々なイデオロギーを調停しようとする精神的な心構えを意味するために、<現実>という言葉を使うことが出来る。

 

典型的な<理想>は、明らかにせよ、暗黙にせよ、一見すべての人々によって意見の一致を得ているように思われる。進歩の<理想>は、科学技術が与えた道具による天然資源の開発を通して、一般に、人類の'生活の質'に関わる物質的充実を意味する。この典型的な<理想>に関連した論争は、どのようなイデオロギーに基づけば、最も進歩を達成できるかと言うことが中心であった。ある人々にとって見れば、最も効果的に進歩を実現するのは、利益の追求を動機付けとする自由な企業活動の二つの原動力(訳注:理想主義と現実主義を意味する)であり、その自由な企業活動は、しばしば、政治システムの自由な選択を保証する民主主義と結びついていた。他の人々は、利潤追求の動機づけではなく、イデオロギーをもって計画経済の下で富を創造することによって進歩を追求した。この場合、社会の安定のためには、政治システムの選択を制限することもあり得るとする別の形態の民主主義に結び付けられることが、しばしばであった。

 

 

 

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