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あるイデオロギーは、富の適切な分配はいつかはあるだろうという期待の中で、海の資源から(陸の資源からと同じく)富を生産するための、唯一、信頼でき効果的な力は、企業家的な私利私欲のやる気にあるとして、これを少し大目に見た。従って、利己主義がすべてを豊かにすることで進歩の<理想>により近づくものである。もう一方のイデオロギーは、利権を与えられた国家間及び一般国際社会で、あるいは世代間のベースで、海洋資源の富の公平な分配を実現させる必要性を強調していて、個人の企業活動に対する規制を通じて、富の生産をコントロールすることで実現しようとした。しかし、より確かに社会正義に向かっているとしても、また全てのために進歩の<理想>に向かっているとしても、その効果と言えば問題の余地が残るのである。この両者は、それぞれが考えるイデオロギーだけが、進歩の<理想>の目標を達成させる、国際社会全体のための現実的な手段であると主張した。

 

その結果必然的に、国連海洋法条約における法律構成――体制・制度・手続きの審議に際して、一方だけのイデオロギーに基づくことが出来なく、その構成員の参加及び、新しい国連海洋法条約に向かって全体として国際的な結束を引き出すため、各イデオロギーの間でそのバランスを取ろうとしたのである。

 

その出来上がったバランスとは、誰か一人の観点に立って、理想的な考え方を相互に、あるいは理想的な考え方と現実的な考え方の間を調整された形の一つとして観ることも出来る。それは、普遍的遵法を助長させるために極めて重要であった。既に言及したような立法上の要素、つまり、国連海洋法条約で規定されている体制、制度上の調整、及び手続きを通じてそのバランスを理解できよう。海洋法の枠組みは、海洋とその資源の全般又は部分的なことを考慮しながら作られた、実際的な権利と義務である。それは手続き条項をもって補われ、そして一部の実例では、体制と手続きの二つは、国連海洋法条約で規定された制度上の調整によって実行されている。こういうバランスの二つの例を簡単に検討することにする。

 

 

 

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