3. 今後の課題
1]地域づくりシステムの違い
バーデンバーデンの地域づくりは、行政やその周辺機関(関連会社も含めて)を中心に行われている。民間はその路線のなかで、経営に集中している。環境問題、文化財指定(歴史的建築物、公園の木1本も文化財)、中心部への車乗り入れの禁止、など際だって街づくりのコンセプトが明確になっており、隙がない。
一方アバノでは、経営者と市長が肩を組んだ形で行われている。経営者が行政方針への知恵を提供している。後者は日本に近い。街はバーデンバーデンが見事に統一されたコンセプトを持ち、それを実現しており、行政指導の強さを感じさせる。アバノは別府よりは統一感はあるが、規制されているムードはない。
ただ、両市とも街づくりのコンセプトに沿った規制は日本よりも強い。バーデンバーデンはもちろんだが、奔放そうに見えるアバノでも、建築物の高さ規制、ホテルの軒数規制などがある。同市では数年前にメインの通りに長い水路を設け、車の乗り入れを規制した場所がある。街のコンセプト、方針をしっかり確立したら、私有財産の自由を若干規制してでも、全体の利益を追求していくことの必要性を痛感する。
2]文化イベント
バーデンバーデン市の文化関係支出を聞いて驚く。年間1,200万マルク(約8億4,000万円)もの予算があてられている(教育関係は除外)。市の大きな柱が文化行政だ。社交場としてのオペラハウスの新増築、市民オーケストラの維持、カラヤン・コンサートの開催と催しは多彩だ。もちろん毎日観光シーズンには野外クラシックコンサートが開かれる。街のシンボリックな文化イベントが世界のマスコミヘ発信される。「健康と保養と美容」という街の基本に、きっちりと社交文化がマッチングしている。
一方、アバノは最近になって文化の味を地域の中に盛り込もうとしている。このイベントが「水の女絵画展」、水にかかわる有名絵画の展示会だが訪問直前に終了し鑑賞する時間は残念ながらなかった。ホテル協会あげて応援した姿がそのガイドブックに反映している。
別府といえば、昨年から始まった「アルゲリッチ国際音楽祭」は世界の観光地の潮流から見て、大ヒットイベントである。第1回目で、国内のクラシック音楽祭では五指に入る地位を築いている。第2回目も成功し裾野が広がったのでさらなる定着を目指せば世界の社交の場としての地位も訪れるものと期待される。
3]ONSEN医療
バーデンバーデンの温泉治療は、行政、ホテル、医者が一体となったユニットとして機能している。街なかでは美しさや癒し、社交場(クワハウス、カジノ、オペラハウスなど)整備を追求し、ホテルやレストランは快適な宿泊や食を提供、そして医者が治療に当たる。私たちが訪問した医療施設は、ホテル施設に医療機能が合体した豪華なものだった。
アバノでは、ホテルそのものが温泉医療施設を経営し、ホテルと医療施設が合体できない日本では制度的にもなし得ない業態を展開している。
これら方向性の違う二つの温泉地から、日本と保険制度の違いで、大きな隔たりがあることに気づかされる。両国とも国や大学などの機関が温泉を研究し、予防医学、リハビリなどで保険適用がなされるのだ。ただ、日本でも予防医学に対する保険適用などは今後、介護保険問題も含めて議論される下地はできている。今回の11月事業を契機に別府医師会の先生方と共通の土俵を持つことができたので海外との交流を継続しながらONSEN医療を具体的に深めていきたい。
4]ONSEN美容、産物
人が健康でありたいと思うように、いにしえより美にたいする憧れ、欲求は強いものがある。ONSEN地に立ちよることにより、現代人が持っているストレスから解放され外面的だけでなく内面的にも美しくなれるような施設あるいは産物の開発が必要である。統一感のある展開は地域の新しい産業としても非常に重要である。
別府には12万6千人の人口と天恵の八湯がある。ONSENそのものだけで違いを出そうとせずに、異なったロケーションを自覚して美容、産物でも個性を出すべきである。