より具体的にいえば、市場規模が縮小する見通しであれば、いろいろな船を開発・設計しなければならないが、設計部門の協力によって労働力を有効に配分することができる。また、例えば特定の需要が非常に伸びたら、それに対応するために労働力の配分を行うことができる。また業務提携により、材料をそれだけ大口で仕入れることができるので、コストが割安になる、またビジネス情報を一層効率的に交換することができるようになる。こういった提言がこの報告書に盛られている。ただし、最終決定はあくまでも、民間企業である個々の会社に委ねられる。つまり日本政府としては日本の民間企業に何かを強制する意図は毛頭なく、民間企業の意思決定に委ねられることである。
議長発言:議長の立場を離れて、この報告書の作成に係わった一人として発言する。この研究会の主催者だったので、報告書をまとめた背景や経過について簡単にお話しなければならない。第1の点は、日本造船業の基本認識である。宮村氏が述べたように、第1次オイル・ショック以降、世界の海運界は能力過剰のために非常に深刻な不況に見舞われ、我々が何もしなければ世界中の造船業に影響が及ぶことが懸念され、そこで世界の新造船のほぼ半分を建造していた日本造船業としては、きわめて短期間に過剰な生産能力を整理した。例えば従業員数を減らし、設備を廃棄した。しかもこういう措置は2回にわたって1979年と87年に実施された。2回とも1年以内に措置が実行され、労働力も設備能力も削減された。その結果は市場に非常に好影響をもたらし、日本の造船会社は各地域の雇用創出、さらに地域経済の反映に緊密に結びつくことになった。そして各社とも、こういう措置を一挙に取ることはできないので、段階的に進めなければならなかった。また各地域において、こういう努力の結果、多数の小企業が設立された。したがって短期的効果という点から見れば市場に好影響を及ぼしたが、業界全体の展望からすれば、各社の体力を損なうことになった。そこで業界をもう一度強化しなければならなくなった。どうしたらそれができるのだろう。これが日本造船業に関して我々が直面している最大の課題だ。そこでこの基本認識に立って、この報告書がまとめられた。その上に日本の経済状況も大きく変化した。最近ではアジア諸国の多数が問題に直面しているが、日本も同じような問題を抱えている。グローバル化は日本の造船業だけでなく、自動車産業、その他にも多数の産業に影響を及ぼし、いずれもリストラを余儀なくされている。そしてこういう状況において、どうしたらわが業界を変革できるか、そのことも念頭に置かなければならない。これら二つの側面を我々は熱心に討議し、これら2点に基づいて、業界の将来の見通しを論じ、この報告書を作成した。結論として、造船企業、あるいは産業は統合を必要とし、企業数を減らさなければならない。それが結論である。しかし断っておかなければならないが、それは政府の考え方であり、提言であるに過ぎず、したがってこれを実行に移すのはあくまでも個別企業の問題である。