地球温暖化の下で熱帯低気圧の最大強度や個々の熱帯低気圧の強度分布がどう変化するかを予測するためには、これらすべての要素が与えられた気候環境下において、熱帯低気圧の強度にどのような影響を与えるのかを総合的に調査することが望まれる。
4] エルニーニョ現象と台風の関係
近年、台風の活動に対するエルニーニョ現象の影響が調査されており、エルニーニョ現象が台風発生の季節変動や年々変動、経度分布に関与していることが指摘されている。
一般に、エルニーニョ現象が発生したときには、東部太平洋赤道域の海面水温が上昇し、西部太平洋赤道域の海面水温が相対的に低くなる。オーストラリア地域では海面気圧が高くなり、周辺の熱帯低気圧の発生は抑えられる。反対に、北太平洋東部や東経170°より東側の熱帯低気圧の発生が顕著になる。事実、1980年代以降エルニーニョ現象が頻発すると、オーストラリア周辺の熱帯低気圧の発生数は少なくなった。また、北大西洋では、エルニーニョ現象時には上層の強い西風によって対流圏の風の鉛直シアーが強まる。その結果、熱帯低気圧の発生は抑えられる。
Aoki(1985)によると、北太平洋北部ではエルニーニョ現象時には台風の発生数が25個/年となり、非エルニーニョ年の28個/年に比較して少ない。また、台風の主な発生海域である北太平洋西部熱帯域での対流活動は弱まり台風の発生数が減少するが、逆に対流活動が東に移動することに伴いマリアナ諸島の東の海域では熱帯低気圧の発生が増加している。同様な結果はChan(1985)やLander(1994)の調査によっても得られている。彼らは、エルニーニョ現象時には東経160°以西、北緯20°以南の台風発生数は減少し、ラニーニャ現象時には逆の現象が起きやすいと述べている。
エルニーニョ現象と台風について、統計的な解析からそれらの関係は明らかにされてきた。現在は、双方の関係についての物理的なメカニズムを明らかにするためにGCMを用いた詳細な解析が進められている。しかしながら、現在のモデルではエルニーニョ現象を、このような解析に耐えられるレベルにまで正確にはシ一トできていないので、エルニーニョ現象が熱帯低気圧に与える影響を明確に述べるに至っていない。