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温室効果ガスは地球放射量を抑制する。その結果、海洋から大気に輸送される熱量は増加する。したがって、熱帯低気圧のMPIは地球温暖化の状況下では増強すると考えられる。Kuroda et al.(1998)やJ.-J. Baik et al.(1998)は過去のデータの統計解析から北太平洋西部における台風の最大強度と海面水温の関係を明らかにした。彼らは、海面水温のランク毎に台風の中心気圧を値が小さくなる順(勢力が大きくなる順)に並べてパーセンタイル解析(あるデータを小さい順に並べた数列を等間隔に100のグループに分割し、小さいグループから順につけた番号をパーセンタイルという。中央値は第50パーセンタイルである。)を行い、例えば26℃の海面水温での最大強度(99パーセンタイル)は940hPa程度であるのに対し、28℃での最大強度(99パーセンタイル)は910hPa程度に達することを示した。この結果は温暖化に伴う海面水温の上昇にしたがいMPIが増大するとの考えを支持している。

温暖化と熱帯低気圧の強度の関係についての数値実験も数多く行われている。例えばHaarsma et al.(1992)は2×Co2モデルにより熱帯低気圧の最大風速が20%増加したことを示している。しかしながら、現行のモデルの空間分解能は荒いので、モデルが表現できる風速および海面気圧は制限され、十分に発達した強い熱帯低気圧に対応する能力(表現力)がない。したがって、強大な熱帯低気圧が更に風速を増すかどうかには疑問が残る。この辺りは高解像度のモデル実験が可能になれば明らかにされるものと期待されている。

熱帯低気圧の強度を決めるファクターとしては海面水温の他に、Grayの発生条件にある対流圏上部の気温(大気安定度)、風速の鉛直シアーなども挙げられる。Bengtsson et al.(1996)やLi(1996)は、モデルの計算により2×CO2、下の大気安定度は現在とあまり変わらないかもしくは大気の中層や上層はむしろ安定度が増すと述べている。また、地球温暖化により熱帯循環が活発になり風速の鉛直シアーが大きくなると、既に述べたように小さな擾乱の成長を妨げる効果や、熱帯低気圧内の鉛直循環が弱まり、周辺の乾燥した空気の熱帯低気圧の中心への移動を妨げ、海面からの水蒸気の供給を減少させる効果が考えられる。更に、海洋自体は熱帯低気圧の強度を低下させる働きがある。つまり、熱帯低気圧が深い低温の海水を持ち上げることにより、海面水温の低下を招くのである。つまり、気候変動により水温躍層の厚さやその分布がどう変わるかは、熱帯低気圧の発達の変動を左右する重要な条件である。また、海水の飛沫(ocean spray)の効果も指摘されている。

これは、熱帯低気圧域内における海洋と大気の間にある第3の流体といわれており、その温度は海面水温よりも低い。この温度の低いエリアは飽和水蒸気圧、つまり、熱帯低気圧の中心付近における総潜熱量の評価に影響を及ぼしていると考えられる。以上の効果は必ずしも定量的に評価されてはいない。これらが正確に評価されない限り、温暖化の下でのMPIの増加あるいは個々の熱帯低気圧の強度について確実なことは言えない。

 

 

 

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