第2部 海洋変動と台風の発生に関する調査
2.1 概要
台風はその規模や頻度から見て、最も人的被害、経済的ダメージを人間社会に与える自然災害である。したがって、地球温暖化などによる気候変動に伴い台風の発生数、強さ、活動域がどのように変わるのかを正確に予測することは、人間社会の平穏を維持する上で非常に重要な研究課題である。既に、GCM(General Circulation Model)を用いた数値シミュレーション結果が報告されているが、モデルを用いた研究と共に過去における現象の特徴を正確に把握しておくことも不可欠である。
本章では、気候変動と熱帯低気圧の活動の関連性を文献にて調査し、北太平洋西部赤道域にて発生・発達する台風の変動と、船舶海上気象データセットなどによって当該海域における海洋気候の変動の特徴を明らかにし、双方の関係について予備的な解析を試みた。以下、2.2節においてはとりまとめた文献の要約を紹介し、2.3節においては台風の長期変動傾向を示した。また、2.4節では、台風の発生域における海洋気候を統計整理し、台風の発生・発達と気候変動の関係について若干の考察を行った。最後に、25節において近年注目されているエルニーニョ現象と台風の発生の関係を簡単に述べた。
2.2 文献のとりまとめ
気候変動と熱帯低気圧の発生・発達の関係については、Emanuel(1997)やHendersonSeller et al.(1998)が比較的最近の知見をまとめている。それらに代表される文献を以下に簡単に要約する。なお、参考にした文献は第2部の末尾に掲載した。
1] 台風活動の変動について
熱帯低気圧の発生しやすい海域は、北大西洋西部、北太平洋東部、北太平洋西部、北インド洋・南インド洋・南太平洋西部の熱帯域である(Gray、1979)。それらの中の北大西洋西部や北太平洋西部では熱帯低気圧に関する比較的長期にわたるデータが存在し、熱帯低気圧の長期変動についての解析が行われてきた。
北太平洋西部は、年間あたりの台風の発生数が27個(1951年〜1998年)であり、地球上で最も熱帯低気圧の発生数が多い海域である。また、最大風速が33m/s以上の熱帯低気圧は年間あたり16個発生し、地球上の総数の約30%を占めている。1951年〜1998年の統計では16個〜39個/年の台風が発生しており、その年々変動は激しい(図2.1参照)。