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ある種の気体分子と水が共存すると、水分子でできる篭状の構造の中に気体分子が取り込まれた気体水和物ができる。二酸化炭素をこの気体水和物の形で固定しようという考えもある。気体分子がメタンであるメタン水和物は、近年世界各地で発見され、新しい天然ガス資源として注目されている。しかし、二酸化炭素は、地球大気にも海水中にもメタンよりはるかに多量に存在するのにもかかわらず、鉱床規模の二酸化炭素水和物の例は報告されていない。したがって、二酸化炭素を水和物として地下に隔離する前に、二酸化炭素水和物を主成分とする地質体が報告されていない理由を解明しておく必要がある。

天然ガス鉱床では、メタンなどの低分子炭化水素が、地層中に封じ込められている。そこで、天然ガス鉱床を採取した後の地層中へ、二酸化炭素を挿入しようという考えが出てくる。二酸化炭素水和物の場合と違って、二酸化炭素を胚胎する地層は天然にも存在する。しかし、その報告例は極めて少ない。したがって、この場合も、二酸化炭素を地層中へ挿入する前に、二酸化炭素鉱床の探査を進めて、その報告例の少ない理由を解明する必要がある。

以上見てきたように、二酸化炭素を気体の状態で地層中に、あるいは液体の状態で深海底に封じ込めることは地球史から見て安全性が保証されているとはいえない。また、二酸化炭素水和物という固体の形にして、深海底下の堆積物中に隔離する方法も安全性は保障されていない。地球の歴史から見て最も安定した二酸化炭素の固定形態は炭酸カルシウムである。ただ、炭酸カルシウムとして固定するためには、カルシウムの供給を必要とする。カルシウムの供給源を岩石に求めるとき、堆積岩は供給源となりえない。なぜならば、堆積岩を構成する鉱物でカルシウムを含む層は方解石のみであり、珪酸塩鉱物は石英かカオリナイトなどのアルミニウム珪酸塩でカルシウムを含まない。したがって、カルシウムの供給は火成岩に求めなければならない。

火成岩のCaO含有量は、一般に酸性岩が2%、中性岩が8%、塩基性岩が12%である。したがって、カルシウムの供給源としては塩基性岩が最も優れている。二酸化炭素の炭酸カルシウムとしての固定を考えるとき、岩石として蛇灰岩から何らかの示唆が得られる可能性がある。蛇灰岩とは、単純には方解石を含む蛇紋岩のことである。蛇紋岩は超塩基性岩が水和されると生成する。超塩基性岩の主な構成鉱物であるカンラン石Mg2SiO4や斜方輝石MgSiO3から、

2Mg2SiO4+3H2O→Mg3Si2O5(OH)4+Mg2++2OH- (20)

3Mg2Si03+2H2O→Mg3Si2O5(OH)4+SiO2 (21)

などの反応で、蛇紋石Mg3Si2O5(OH)4が生成する。この蛇紋石に富む岩石が蛇紋岩である。

 

 

 

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