ここで、(18O/16O)caと(18O/16O)aqはそれぞれ方解石と水の18Oと16Oの濃度比である。この分別係数は温度の関数であるから、それを実験的に決めることによって、貝殻が生成したときの水温を推定することができる。ただし、このとき、貝が生育していた場所の水の18Oと16Oの濃度比が必要である。もしそれが分からない場合は、生育時の温度の時間的変化のみが推定できる。
5. 石灰岩
岩石学では地球を構成する最小単位を鉱物、その集合体を岩石という。花崗岩は石英と長石(カリ長石と斜長石)を主とし、黒雲母や角閃石で構成されている岩石である。岩石は通常このように複数の鉱物で構成されているが、単一の鉱物で構成されている岩石もある。その代表例が、方解石で構成されている石灰岩である。
海洋底では、浮遊性有孔虫の死骸が積もって石灰岩が形成される。しかし、これは数1000mより浅い海に限られる。浅海では、反応(6)や(7)により炭酸カルシウムが沈殿する。一方、深海になるとこれらの反応の逆反応、すなわち
CaCO3→Ca2++CO32- (11)
CaCO3+H+→Ca2++HCO3- (12)
により炭酸カルシウムが溶解する。このため、海中を沈降している石灰殻は次第に消滅する。この結果、ある深さ以深では炭酸カルシウムの沈殿物が存在しなくなる。この深さを炭酸塩補償深度(CCD:Carbonate Compensation Depth)という。炭酸塩補償深度以浅に存在する深海底の炭酸カルシウム堆積物を石灰質軟泥という。
深海底には、珪藻などの珪酸(SiO2)質殻をもつ生物の遺骸も堆積しており、これらは珪質軟泥と呼ばれている。さらに陸源の砕屑粒子や粘土鉱物も深海底に堆積している。深海底において、これらのいずれが卓越するかは、1]炭酸塩補償深度以外に、2]陸からの距離、3]海流、4]浅海における生物生産量に関係する。これら4つの因子を頭において、深海底堆積物の分布図を見ると興味深い。
深海底堆積物は他のプレートの下に沈み込むか、それに付加される。沈み込んだ部分は変質岩になるか溶融してマグマとなる。