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いづれも将来の食糧不足に備えて動物性タンパク質を確保することが目的になっている。

科学技術庁の振興調整費で高知県室戸市に、水深320mから日量450トンの海水を汲み上げる施設が1990年にできた。そこでは海水の持っているさまざまな資源性が利用され、その後に海に放水されているが、放水路に沿って見事な海藻の密集地帯ができあがっている。海域の肥沃化効果である。平成11年度から5年計画で、通産省が海水の低温性を利用する研究計画を始めるが、そこでは日量10〜100万トンの海水が陸上に汲み上げられ、低温性が利用された後で海域に放水される。排水は栄養塩類に富んでいるので、それを利用して海域の肥沃化が検討されることになっている。

また、大陸棚に海山を造って、海流が海山に当たった際に下層水が湧昇する効果を狙った事業が長崎県の松浦市沖で進められている。海山を造るための資材には、石炭火力発電所から出る石炭灰が利用されている。いったん海山を造ってしまえば、あとは流れがあれば自然に湧昇が起こるので、長い目で見た場合には最も効果的な湧昇技術といえる。

こうしたさまざまな湧昇技術を駆使して、日本の200海里内を今よりも肥沃にすることにより、生産性を高め、水産物の増産をはかっていくことが当面の日本の動物タンパク質の確保の有力な道である。海は、人の力で肥沃化された後で人が利用しないでも、自然に生物が生まれては死んでいき、自然の循環が維持されていく。必要になったときに、人は利用の手を出せばいい。この点が常に人の管理を必要とする農業や畜産とは全く違う。

 

濃い資源から薄い資源への利用の切り替え

個人の欲望を抑えることを最小限にする場合の、当面の問題軽減の方向は、使う資源を「濃いもの」から「薄いもの」へと切り替えていくことである。薄いエネルギー資源としては太陽光などがある。物質資源としては海水がある。海水は物質だけでなく、冷熱エネルギーももっている。海水の資源密度は小さいが、量が膨大で、しかも数年〜数1000年で資源性が再生する。海水のもっている物質資源の内で知られているものは、栄養塩類、各種金属類、塩、水などがある。特に、水深200m以深のいわゆる深層水が清浄で冷たく資源利用には適している。

 

 

 

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