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むしろ、水産物を獲りやすくした分、資源枯渇を早めたといえる。

日本周辺の200海里経済水域内は、栄養塩類の供給不足のために、生産が著しく押さえられている。生産を上げるには、数10m以浅の光のよく透る水深への栄養塩類の供給を、よくすることである。Ryther(1969)の試算をもとに計算すると、日本の200海里内の栄養塩類を何らかの方法でよくすると、年間に2億トンの水産物の生産が期待できる。半分を漁獲したとして、年間に1億トンである。日本が年間に必要とする水産物換算の必要タンパク質量2800万トンの3倍である。

 

海の生産性向上による動物性タンパク質の確保

日本の周辺の海の水深数10mまでの浅いところにもっと多くの栄養塩類が供給されるようにするには、数10mより下にある海水が表層近くに上がってくるようにすればいい。数10mより下層の海水中には、生物が必要とする窒素、リン、珪素、鉄、等さまざまな栄養塩類が、生物の必要とする比率で溶けている。これは海では少し深くなると光が十分に届かないために、有機物が分解されて栄養塩類が溜まったためである。したがって、下層の海水が数10m以浅に上がってくれば、その分、栄養塩類の供給が増える。

海では、下層の水は次第に暖まって表層に上がって行くが、その速度は遅い。比較的に速やかに上がっているところが湧昇域である。ペルー沖、カリフォルニア沖、赤道東部、南極海などが湧昇域の代表で、その面積は海洋の0.1%程度である。Ryhter(1969)の試算によれば、湧昇域の一次生産は92.5%を占める外洋の6倍、魚類生産にいたっては72000倍の大きさである。

したがって、海の生産性を上げるには、数10m以深の水が表層近くに上がりやすくすることである。1989/90年に科学技術庁の振興調整費を利用して、富山県で水深200mの海水を汲み上げ、表層水と混ぜて表層に散布して海域を肥沃にする世界で最初の実験が行われた。台風の時には散水するバージを港に避難させなければならないために、ごく限られた期間しか実験はできなかったが、海域肥沃のための重要な基礎データが多く得られた。この考え方はその後に沖縄県海洋深層水利用協同組合に引き継がれ、沖縄本島糸満沖30kmの水深1800mの海域で、水深600mと1400mからそれぞれパイプで海水を汲み上げて海域を肥沃にする実験に発展した。現在、米国から日本を始め世界に向けて「Upwelling Mariculture 21」計画が提案されている。これは、亜熱帯の海域で下から海水を汲み上げて生産性を高めて新しい漁場を造ろうという壮大な計画である。こうした下層水を持ち上げて海域を肥沃にするという考え方は、もっと古くからあり、たとえば1957年にはSF作家のアーサー・クラークが邦訳「海底牧場」で提案している。

 

 

 

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