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世界の食糧生産が今後も日本の輸入を支えるだけの余裕があればいいが、人口の増加に対応した食糧生産の増加は今後は難しいという見方が強い。そう考えると、日本は大変に危険な状態にあるといえる。

主な食糧供給国である米国の農務省の役人は、米国が食糧を供給できるのは向こう10年程度で、その後は保証できないといっている。彼らの考え方は極めて単純で、輸入の外圧に屈した方が悪く、輸入を強く迫った方には責任はない、という極めてクールなものである。こうした考え方は、食糧以外の物では妥当であるが、食糧にそれを当てはめるのは大変に危険であり、殺人行為である。しかし、現実がそうである以上、被害を受ける側で対策を考えておかねばならない。

数年前に、現在の人口構成を考えると、近い将来に日本の人口は減り始めるから、人口が減らないようにすることを考える委員会が確か総理大臣の諮問機関として作られたというニュースが流れた。そこには日本の置かれている食糧事情への配慮は全くない。食糧の自給率の低い日本にとって、人口が減り始めるのに合わせて、食糧自給率を100%にすることを考えて適正人口を考えるべきときである。そして、その適正人口にどうやって持っていくかをこそ考えるチャンスである。そうした視点は全く感じられない。食糧不足が顕在化しない内に、食糧の安全供給の道を確保していくことが、日本の社会の持続性の上で最重要の課題である。

さて、日本の食糧の自給率の低さは、動物性タンパク質を外国産に依存していることが原因として大きい。日本の年間の畜産肉類の消費量は約800万トンで、その飼料の90%以上を輸入に頼っている。輸入水産物は年間約400万トンである。それに対して国産の水産物は約750万トンしかない。畜産肉類は水産物に比べて水分が少なく、枝肉のために可食部が多いので、水産物の2倍の価値がある。つまり、水産物にすると畜産物は1600万トンの価値がある。畜産物と水産物を動物性タンパク質とすれば、輸入タンパク質の量は実に70%以上に上る。

畜産物を国内産の飼料で飼育するには、農地面積を現在の3倍にしなければならないという。畜産物の国内飼料での飼育は鋭意努力していくとして、同時に水産物の増産の道を考える必要がある。しかし、漁獲は1988年の1300万トンをピークにして以後は坂道を転がる勢いで低下している。それは、これまで水産物は「探して、獲る」技術を主として磨いてきて、生産性を上げて、水産物を育てることをしてこなかったからである。たとえば魚礁や浮き魚礁は、水産物をおびき寄せる効果は大きいが、育てる効果はほとんど無い。

 

 

 

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