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そのためには、50年、100年、1000年先を見据えた視点を持つことが不可欠である。しかし、現状はむしろますます現実の問題に追われている状況のように思う。これはまさに危機である。早急に、できるだけ遠い将来に焦点を当てて、社会の進むべき道を定め、それに沿った社会のシステムに変えていくことを考え、実践する必要がある。そのためには、英知を結集して社会のあり方を真剣に考え、進むべき道を選択しなければならない。ここで取り上げる小文はそうした考え方のもとで、書いたものである。

 

社会が抱えている本質的な問題

社会が抱えている大小さまざまな問題の中で現在、最も大きいと考えられているのは、恐らく地球環境問題であろう。確かに、地球の環境が人間の生活に適さなくなってしまったら大変である。そうなったら、宇宙船を造ってその中にでもいない限り、そのままでは人類は絶滅である。環境が人間の生活に適さないというのは、何も私たち自身に対する直接的な問題だけではない。むしろ人間は、生物の中では環境に対する適応力が本来極めて強く、その上、温度を制御したり、服を着たり、移動したりというように、自分達の手で身近の環境をコントロールするので、環境への適応力が著しく広くて、少々の地球環境の変化は問題ではない。その証拠に、本来は生きられない北極や南極でも生活できるのがその良い例である。問題は、人間は自分達だけでは生きて行かれないところになる。つまり、食べ物や、呼吸に必要な酸素、あるいは水、といったものがないと生きていけないが、これらの多くは身の回りにいる生物の働きで供給されている。ということは、私たち人間が生きていくためには、関係している他の生物も共に生きて行かなければならない。人間以外の生物は、環境が少し変化しただけで生きて行かれなくなるものが多い。したがって、他の生物まで考えたときの地球環境は、人間だけに比べるとかなり範囲が限られてくる。つまり、現状からの余り大きな環境の変化には耐えられない。

さて、今、問題になっている地球環境は、人間活動が原因である。もう少し詳しく見ると、人間の数、つまり人口が多くなったことと、一人あたりの欲望、つまり豊かさが大きくなったこと、ために起こっている。人口と欲望の相乗効果で、地球環境への影響が異常に膨らんだ。したがって、人口と個人の欲望が、地球環境問題の根本原因といえる。しかし、現実は、人口と欲望はそのままにして、出てきた個別の問題を解決しようとしているのが、地球環境問題への現状の取り組みである。これでは解決にはならない。

 

 

 

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