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水産業のこのところの凋落の主な原因は先にも触れたように、水産生物を探したり、罠で集めたりして、捕ることにのみ努力を傾けてきた結果である。栽培漁業が工夫されたが、実体は水産生物の稚仔の放流である。放流先が自然の生態系であるので、人工種苗の生き残りは必ずしも良くなく、放流実績の上がったものはきわめて限られている。こうした取り組みの背景には、水産資源はとにかく捕ることに注目されていて、生きて行くための食糧を育てて確保するという考え方が全く感じられない。そこには、無意識の内に生物を鉱物資源と同様に考えているように見える。水産業が最も力を注ぐべきところは、いかにして水産生物を育てて行くかで、そのためには稚仔を放流することではなく、その前に放流した稚仔が食べていかれるような環境造りである。放流稚仔の食い扶持を考えなければならない。

内湾のごく一部を除けば、海洋は肥料が乏しい、つまり貧栄養の栄養不足である。その証拠に、肥料を多く含んだ中層水が海面に湧出している湧昇域では世界の海の0.1%程度の面積しかないのに、世界の漁獲の50%を上げている。ちなみに残りの50%の漁獲は面積で20%の沿岸域で、そこは水深が浅いために海水の上下混合が比較的に盛んなことと、陸地からの影響などで栄養状態が湧昇ほどではないが良くなっているからである。80%の面積を占める広大な外洋域は水産物の生産性にはほとんど貢献していない。慢性的な栄養(肥料)不足だからである。水産資源を増やすことは、したがって、まずは海を肥沃にすることである。世界の海はどこも水深が数100mまでは深くなればなるほど水中にある肥料の濃度が増えていく。この中・深層の水を表層近くに上げられれば肥料不足は程度が軽くなり、生産性は上昇する。こうした本質的なことになかなか気がつかないし、やっと気がついても下の海水を表層に大量に持ち上げる技術が無いし、そのための研究者や技術者もほとんどいないという状況である。

農業は陸上環境を大きく変えてしまった。海洋も人間活動の直接・間接の影響を受けてすでに変化している。今後、海洋を積極的に利用すると変化を加速する恐れがある。地球環境の維持のためにも生物海洋学の学問的充実を図り、海洋の状況をしっかりと管理していく必要があり、これはきわめて緊急といえる。

 

2-2-4 海洋資源利用による社会の持続性強化の方向

現在の社会はさまざまな問題を抱えており、それぞれに解決の努力がなされている。しかし、大小の問題に個々バラバラに取り組んでいる感が強い。社会の持続的発展を考えると、さまざまな問題の中から最も本質的な問題を考え、抽出し、総力を挙げてその解決の道を考え、実行することである。

 

 

 

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