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ここでは各栄養段階の生物量と生物生産が地球規模で見積もられた。成果は今でも広く使われているが、中でもよく利用されるのがWhittaker & Likens(1975)のまとめた結果である。その後、国際海洋10ヵ年計画(International Decade of Ocean Exploration、IDOE)が企画され、生物海洋学分野では生態系の働きの解明に人々の努力が注がれた。さらにこれはオーシャン・フラックス計画(Joint Global Ocean Flux Studies、JGOFS)から、続いて国際地球圏生物圏事業計画(International Geosphere and Biosphere Program、IGBP)へと発展し、現在に到っている。その間に、南極海域ではバイオマス計画(Biological Investigation of Marine Antarctic Systems and Stocks、BIOMASS)などのプランクトンを中心とした研究も実施された。しかし、日本では研究環境の不備や研究者層の薄さなどから、国際的なプロジェクト研究での役割分担が年を追うごとに次第に難しくなっていったという状況がある。日本海洋学会は現在2000人を越える会員を擁してはいるが、年2回行なわれる研究発表会のプログラムを見ると、内湾などで小船で実施した研究が圧倒的に多く、特に生物分野ではそれが著しい。つまり、組織的な取り組みのできるところが少なく、湾外の広い海洋に出ていく手段を持つ研究者が少ないためである。

 

「生物海洋学」のこれから

20世紀の世紀末を迎えた現在、地球環境、食糧、人口など、社会は様々な大きな問題を抱えている。これらを解決するには、海洋を含めて地球全体で考えて行く必要がある。その際、生物海洋学の果たすであろう役割の重要性は衆目の認めるところである。しかし、実際には教育・研究環境は極めて心細い限りである。特に、日本では先に述べたように教育・研究の機構で既存概念が強すぎるという根本的な問題を抱えているために、生物海洋学のような新しい概念を受け入れる素地が乏しい。さらに、生物海洋学を支えてきた水産学は、このところの水産業の元気の無さからの影響が大きく学問としての地盤の安定さに不安がある。

昨今、省庁の統廃合が叫ばれている。海洋の重要性を考えると、海洋の問題を一括して担当する必要性が強く感じられる。そのためには海洋省を新設して海洋への取り組みを一本化するとか、そこまでいかなくとも海洋全体が眺められるような仕組みが行政としても必要である。教育と研究も、海洋をまとめて全体で考えてみたらどうだろうか?たとえば東京水産大学と東京商船大学が一緒になって東京海洋大学とし、水産と海運だけでなく、海洋の工学や基礎科学なども充実して海洋全体の教育と研究をより活発に展開できるようにすることである。

 

 

 

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