「国際スポーツ行政マン」育成へ向けてJOCが始動
──JOC強化事業部
財団法人日本オリンピック委員会(JOC)では、「国際スポーツ組織指導者養成のための研修制度」を発足しました。別名、ISA(ISA=International Sports Administrator)研修制度と呼ばれ、将来の日本のスポーツ界を代表し、国際スポーツ組織─国際オリンピック委員会(IOC)、国際競技連盟(IF)、アジア・オリンピック委員会(OCA)、アジア競技連盟(AF)など――において活躍できる人材(国際スポーツ行政マン)を計画的に育成していく制度です。
JOCは、これまで「スポーツ指導者在外研修事業」に代表されるコーチ、技術指導者に対する海外での研修事業を行ってきましたが、マネジメントスタッフ、医科学スタッフなど、指導者以外の人材を計画的に養成する制度が確立されていませんでした。そこで、JOC内に専門の検討プロジェクトを設置し、本制度を発足しました。本制度の対象・人数等は以下のとおりです。
一、対象は、JOCもしくはJOC加盟団体に所属し推薦を受けた者。年齢は原則として20代〜30代とし、研修終了後に推薦元団体でその成果を活かして活躍することができる者とする。
二、研修人数は当初2名程度、期間は1年を原則とする。
三、研修費用については、JOCが1名につき300万円を上限として負担する。
JOCでは、本制度で研修を受ける方々が、研修先の国際スポーツ組織において、組織の現状把握、人脈形成、組織運営ノウハウについて学ぶとともに、国際スポーツに関する各種の情報を積極的に収集し、優れた国際感覚を身につけることを期待しています。そして帰国後は、その成果を推薦元の団体に反映し、将来は日本の代表として国際スポーツ組織をリードする人材になっていただきたいと考えています。
本制度は、10〜20年先を見据えた長期的なプロジェクトです。本制度を利用して数多くの方々が海外に渡ることで、わが国と国際組織との間に親密な関係が築かれるでしょう。こうした国際スポーツ人の活躍こそが、国際スポーツ界における日本の地位の向上につながるものと確信しています。
直径3.8cm、重さ25gの小さくて軽いピンポン・ボールが、アメリカと中国の国交を回復させ、韓国と北朝鮮の人々の心をつないだ事実をみなさんはご存じですか?
長野県の山奥、標高900mにある楢川村で、卓球を通じた「村おこし」が始まったのは、「世界のOGI(オギ)」と呼ばれた故・荻村伊智朗さんが、祖父の出身地であるこの山村を訪れたのがきっかけです。
3歳の小さな子どもから、90歳の老人までが一緒に行えるスポーツ、卓球。子どもたちにそんな卓球の楽しさを伝えたい、そんな夢を持ってこの村に赴任してきた私が出会ったのは、なんと全日本一線級の選手たち、往年の一流プレーヤー、優秀なコーチ陣でした。卓球界では雲の上の存在の人たちばかり。
彼らをこの地に誘ったのが荻村伊智朗さん。かつて、世界の金メダルを12個獲り、各国で名選手を育て、現代の攻撃卓球というスタイルを作り上げ、イギリス発祥のスポーツである卓球の国際連盟会長まで務めた偉大な人物です。その荻村さんの夢は、卓球日本の復活を掲げて、この村に全日本の卓球基地を作り上げることでした。平成6年に卓球台30台を設置できる多目的施設「インターナショナル・テーブルテニス・トレーニングセンター」が完成、全日本チームの合宿が頻繁に行われ、次は国際卓球博物館の建設が構想にあがっていました。しかし、そこで荻村さんの突然の死。強力なリーダーの喪失は、楢川村はもとより、卓球界を揺るがしました。
荻村さん亡き後、村では、荻村さんが愛した卓球による地道で新たな方向の「村おこし」を探っています。そのひとつが、全日本チームの合宿の誘致や博物館の建設というハード面だけでなく、住民の誰もが卓球を実践して楽しめる雰囲気づくりです。人口は3,600人を割り、小・中学生が270人に減ってきたこの村ですが、近年、全国大会へ出場する子どもたちが輩出されるまでになってきました。
荻村さんの遺志をついだ青少年の育成が結果を出しはじめたのです。
スポーツの教育力は今さら言及するまでもありませんが、卓球というスポーツの特徴としては、
・ケガをすることがほとんどない
・大会の開催が多く、緊張する試合の経験をたくさん積める
・技術的に高度でバラエティに富んだ練習ができる
・レベルが上がると、反射力、持久力、瞬発力などが高度に要求される
などでしょうか。荻村さんは、「卓球は100mダッシュをしながらセブンブリッジをするようなスポーツ」と表現しましたが、ボールが1秒間にコートを3往復、飛び交うボールの回転数は小型飛行機のプロペラ並みといえば、納得していただけるでしょう。
とはいっても、卓球は手軽にできるスポーツの代表でもあります。健康づくりの一環としてウォーキングがブームですが、卓球も、楽しみながら時間当たりの運動効果が高いということから、健康づくりにも取り入れられています。冬は雪が降るこの村では、冬場のトレーニングとしても定着しつつあります。
この小さな村から、小さなボールのラリーが、世代を越えて広がり、そしてもっと広い世界へとつながっていくことを願っています。